弘前市という舞台——岩木山と城下町の風景
弘前市。青森県内で人口規模が青森市に次ぐ、津軽地方の中心都市だ。岩木山(標高1,625m)を西に仰ぎ、弘前城(鷹岡城)を中心とした城下町の歴史を持つ。春には弘前公園の桜が満開になり、全国から花見客が押し寄せる「弘前さくらまつり」は、日本三大夜桜にも数えられる。
弘前市はまた、津軽塗(伝統的な漆器)、津軽三味線、ねぷた(弘前ではねぷた、青森ではねぶた)など、津軽の伝統文化が色濃く残る都市でもある。弘前大学の学術都市としての顔も持ち、人口規模に比して文化的な厚みがある。
桜ヶ丘温泉は、そんな弘前市内に位置する地域密着の銭湯だ。「桜ヶ丘」という名は、弘前城の桜とも弘前市内の桜が多い丘陵地帯とも結びつくような、弘前らしい名前だと感じる。
施設データ――390円の銭湯が持つ、男女で異なるサウナ温度
FACILITY DATA
| 施設名 | 桜ヶ丘温泉 |
|---|---|
| 種別 | 銭湯 |
| 住所 | 青森県弘前市内 |
| 営業時間 | 10:00〜22:00 |
| 料金 | 390円〜 |
数字を見て首をかしげた人も多いのではないか。男湯サウナ40℃——これは通常のドライサウナ(80〜100℃)やフィンランドサウナ(70〜90℃)と比べて圧倒的に低い。一方、女湯サウナは90℃という標準的な高温。なぜこれほどの差があるのか。
40℃というサウナ温度は、「ボナサウナ」の可能性が高い。ボナサウナとは、遠赤外線放射を利用した輻射熱型サウナで、空気温度は低くても、遠赤外線が皮膚を通して体の芯を温める方式だ。一般的な高温サウナよりも体への負担が少なく、心臓や血圧に不安がある方でも入りやすいとされる。40℃の空気の中でも、遠赤外線によって体感はじんわりと暖かく、長時間入浴しやすい。
ボナサウナとは何か――輻射熱型サウナの科学
ボナサウナ(BONA SAUNA)は、フィンランド語で「良いサウナ」を意味するとも言われるが、日本では特に輻射熱式(遠赤外線式)サウナを指すことが多い。壁面や天井に埋め込まれた遠赤外線パネルが体に直接熱を伝えるため、空気温度が低くても体の深部を温める効果がある。
通常のサウナは対流熱(熱い空気による熱伝達)が主体だが、ボナサウナは輻射熱(電磁波による直接的な熱伝達)が主体だ。太陽光で暖かく感じる原理と同じで、空気が冷たくても日差しが当たると暖かい、あの感覚に近い。
発汗量は高温サウナには劣るが、心臓への負担が少なく、長時間じっくり温まることができる。高血圧の方や高齢者、サウナ初心者にも比較的安全で、「医療用サウナ」として採用されることもある種類だ。弘前市のような高齢化が進む地域において、地元の常連さんに長年親しまれてきた理由のひとつかもしれない。
40℃と聞いて正直なめていた。でも椅子に座って5分経つと、じわじわと背中の奥が熱くなってくる。肌の表面じゃなくて、骨の手前あたりが温まる感じ。20分くらい余裕で座っていられる。高温サウナでは長くて8〜10分が限界だけど、ここは違う。出た後の水風呂(20.4℃)が優しく感じた。弘前のおじいちゃんたちが毎日来るわけだ、と思った。
弘前の銭湯文化——城下町の日常と湯
弘前市内の銭湯は、近年も一定数が現役で営業を続けている。津軽の冬は厳しく、積雪量も多い。そういった寒冷地では、銭湯・温浴施設が単なる「風呂屋」以上の役割を果たしてきた。体を温め、地域の人々が顔を合わせ、情報を交換する社交の場だ。
桜ヶ丘温泉もまた、弘前市の生活インフラの一部として機能してきた。弘前市内の銭湯の中でも地元の常連客が長年にわたって足を運び続けている施設のひとつだ。
営業時間が10時〜22時という設定は、午前中から夜まで幅広い層に対応したものだ。午前中は高齢者の常連さんが多く、夕方以降は仕事帰りの若い世代が増える。男湯の40℃サウナと女湯の90℃サウナという温度差が、長年の常連層の好みに合わせて自然に定着したものだとすれば、その歴史の重さが温度計の数字に表れているともいえる。
弘前観光とのペアリング——弘前城・津軽藩ねぷた村・岩木山
弘前を観光で訪れるなら、サウナとの組み合わせは非常に充実している。弘前城(弘前公園)は春の桜と秋の紅葉が特に美しく、両シーズンは観光客で混み合う。弘前城の石垣修理(曳屋工事)は2024年に完了し、本丸の天守閣が元の位置に戻された歴史的な節目も重なり、注目度が高まっている。
津軽藩ねぷた村では、津軽三味線の生演奏や津軽塗の体験ができる。津軽三味線の力強い音色は、サウナの熱とともに体に刻まれるような体験だ。岩木山へのドライブは、晴れた日には頂上付近まで車でアクセスでき(8合目まで自動車道)、津軽平野の絶景が広がる。
弘前観光を終えた後、市内の銭湯でサウナに浸かってから帰路につく——そのルートのひとつとして、桜ヶ丘温泉を記憶しておいてほしい。390円という入浴料は、観光の締めくくりとしても財布に優しい。