三沢という街——米軍基地と航空自衛隊の街
青森県三沢市は、太平洋側の下北半島基部に位置する人口約4万人の都市だ。周辺の農業地帯や漁港から想像されるような静かな地方都市とは少し違う、独特の空気感を持つ場所である。市内には米軍三沢基地と航空自衛隊三沢基地が共存しており、在日米軍関係者を含む多国籍な住民が暮らす、青森県内でも特異な性格の街だ。
三沢の街を歩くと、英語の看板が混在する商店街があり、ステーキハウスやメキシカン料理店がラーメン屋の隣に並んでいたりする。1950年代から続く基地との共存の歴史が、この街の食文化や生活様式に独自の色彩を与えてきた。一方で、三沢空港から国内各地へのアクセスがよく、農業・漁業・観光の観点でも上十三地域(十和田・七戸・六戸・三沢・おいらせ周辺)の中心都市として機能している。
そんな三沢に、朝5時から開く銭湯がある。それが桂温泉だ。
朝5時から始まる銭湯の意味
朝5時営業という設定は、単純に「早起きの人向け」という理由だけではないだろう。三沢には、夜勤や早朝シフトで働く人々が多い。基地関連の仕事には特殊な勤務形態が多く、深夜から明け方に業務が集中することもある。農業従事者なら農繁期の収穫作業が夜明け前から始まる場合もある。漁師であれば、早朝の出漁後に体を温めたいと思うのは自然なことだ。
桂温泉の朝5時営業は、そうした三沢の多様な労働環境に対応してきた結果として定着した時間設定ではないかと推察する。都市型スパが「夜のリラクゼーション」を提供するのとは異なり、地域の銭湯は「一日を始める場所」でもあるわけだ。
早朝のサウナには、独特の清々しさがある。蒸気が立ち込める浴室に、まだ少ない先客と無言で同席し、汗を流して水風呂に沈む。外はまだ暗く、あるいは夜明けの薄明かりが窓から差し込んでいる。その時間の静けさは、夕方や夜のサウナとは別物の体験を提供する。
基地の仕事を終えて夜明けに桂に来る人もいれば、農作業の前に立ち寄る人もいる。三沢の朝は、サウナから始まるのだという気がした。
「桂」という名前と基地の街のコントラスト
「桂温泉」という名前は、日本の古来の植物・桂(かつら)の木に由来するのだろうか。あるいは地名や屋号に由来するのかもしれない。いずれにしても、その和風の名前と、米軍基地が隣接するという特殊な立地のコントラストが、三沢という街の二面性を象徴しているように感じる。
銭湯という場所は、本来どんな職業・国籍・年齢の人でも裸で同じ湯に浸かる民主的な空間だ。基地関係者も農家も漁師も、同じ料金で同じサウナに入る。言語も背景も異なる人々が無言で熱を共有する——そんな光景が三沢の銭湯にはあったかもしれない。
D'STYLEが北東北各地のサウナ施設を訪ねるなかで、三沢のような「特殊な背景を持つ土地の銭湯」には、ほかの地域にはない独自の物語が宿っていることが多い。その土地の歴史を知ってから入るサウナは、知らずに入るよりも深く体に沁みる気がするものだ。
94℃のサウナと14℃の水風呂
桂温泉のサウナ温度は82〜94℃の幅で変動するとされるが、訪問時の体感では概ね90℃台が標準的なようだ。銭湯サウナとしては十分に高温であり、薪ストーブや電気ストーブの種類・コンディションによって日々の温度が若干変動するのは、こうした施設では珍しくない。
注目すべきは水風呂の14℃という低温だ。青森県の地下水は冷たく、冬場には10℃台前半の水温を維持しやすい。14℃はサウナ愛好家からすると「ととのい」を強く促す温度帯であり、90℃台のサウナから出た直後に14℃の水風呂に浸かる落差は、体感的に非常に大きい。血管の急激な収縮と拡張が交互に起き、その後の外気浴で深いリラクゼーション状態に達しやすい。
水風呂の温度が低いほど、長く入り続けることは難しい。14℃では10〜20秒程度で十分な冷却効果が得られる。サウナ初心者には少し怖く感じるかもしれないが、体を沈めた瞬間の爽快感は、温度が低いからこそ得られるものだ。
地域の人々の日常としての銭湯サウナ
三沢の桂温泉は、観光客向けの「体験型サウナ」ではない。地域の人々が日常的に通う生活インフラとして存在している。450円という価格設定も、その姿勢を体現している。特別な設備や演出はないかもしれないが、それが地域の銭湯サウナの本来の姿だ。
私自身、北東北各地のサウナを訪れるたびに感じることがある。都市のトレンドとしてのサウナ文化が到達する以前から、この地域には自分たちのサウナ文化があった。フィンランドのサウナ文化を参照する必要もなく、「ととのう」という言葉すら知らなくても、人々は朝から銭湯のサウナに通い、体を整え、一日を送ってきた。
その文化を支えてきたのが、桂温泉のような地域の銭湯だ。外観は地味かもしれない。内装も豪華ではないかもしれない。しかし何十年もの間、地域の人々の朝を支えてきたという事実は、どんな高級スパにも代えられない価値を持っている。
FACILITY DATA
| 施設名 | 桂温泉 |
|---|---|
| 住所 | 青森県三沢市 |
| 営業時間 | 05:00〜22:00 |
| 料金 | 450円〜 |
| サウナ温度 | 82〜94℃ |
| 水風呂 | 14〜23℃ |
| 備考 | 早朝5時から営業 |
三沢からのアクセスと周辺観光
三沢市へのアクセスは複数の手段がある。東北新幹線の七戸十和田駅から路線バスで約1時間、または三沢空港(東京・大阪便あり)を利用する方法が代表的だ。盛岡からは東北自動車道経由で約2時間半、八戸からは約30分で到着できる。
三沢を拠点にした周辺観光としては、十和田湖(車で約1時間)、小川原湖(すぐ近く)、八戸の朝市などがある。特に小川原湖は日本最大の汽水湖で、しじみ・ヤマトシジミ・ワカサギの漁場として知られる。早朝に桂温泉でサウナを楽しんだあと、小川原湖でしじみ汁を食べる——という朝の過ごし方は、三沢ならではの体験だろう。
桂温泉のサウナで体を整えてから出発する旅は、体が軽く、頭が冴えた状態で一日を動き始められる。早朝5時から営業しているということは、旅行者にとっても「チェックアウト前の最後の一浴」として活用できるメリットがある。三沢のホテルや宿に泊まるなら、翌朝の桂温泉訪問をぜひ計画に加えてほしい。