下北半島は、日本地図で見ると斧(まさかり)の形をした半島として知られている。本州最北端に位置するむつ市は、その半島の中心にある都市だ。大間崎(マグロで有名な本州最北端の岬)まで北に向かうか、仏ヶ浦の奇岩を目指して西へ向かうか——むつ市はその起点となる場所だ。観光客には先端地域へ向かう通過点として認識されることも多いが、人口5万人弱を抱えるこの都市には、地域の生活を支えるインフラが揃っている。菊の湯は、そのひとつだ。
菊の湯は、むつ市内にある銭湯で、男女ともにサウナを完備している。入浴料は480円。13時から営業しており、仕事帰りや休日に地元の人々が訪れる。下北半島の先端に近い地域に、ちゃんとサウナのある銭湯がある——そのことを、まず伝えたい。
下北半島という場所の孤立感と充足感
下北半島は、地理的に孤立した半島だ。青森市からむつ市へは、陸路で国道4号→279号を使って約2時間かかる。鉄道は大湊線(野辺地駅〜大湊駅)が通じているが、本数は少ない。フェリーで青森港や函館港とつながっているが、日常的な往来には向かない頻度だ。
そういう地理的条件の中で、むつ市はある種の自給自足的な生活インフラを発展させてきた。医療・教育・商業が市内に揃い、下北半島全体の中核都市として機能している。そのインフラの中に、銭湯・サウナも含まれる。
孤立した地域での温浴施設は、東北の他の地域でも似たような役割を持っている。冬の厳しい寒さの中で、銭湯は「温まる場所」としての機能が特に重要だ。むつ市の冬はマイナス10℃以下になることもある厳寒の地で、菊の湯のような銭湯が担う役割は大きい。
むつ市と自衛隊・原子力の文化的背景
むつ市は、陸上自衛隊の駐屯地がある都市だ。また、原子力関連施設との関わりも深く、近くには青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設がある。自衛隊員とその家族、原子力関連の研究者・技術者——そういった職業の人々が多く居住するむつ市の人口構成は、他の地方都市と少し異なる。
自衛隊員のいる街では、銭湯・サウナの需要が高い傾向がある。訓練で疲れた身体を癒す場所として、銭湯・サウナは自衛隊員にとって重要な生活インフラだ。菊の湯がむつ市でサウナを維持し続けているのは、こういった需要基盤があるからかもしれない。
男女ともにサウナ——44℃・23℃という数字
菊の湯は、男性浴室が44℃、女性浴室が23℃という温度設定だ。これは通常の「ドライサウナ」というよりは「低温サウナ」あるいは「温熱治療室」に近い温度帯だ。44℃という温度は、体温より高い程度の温度で、長時間入っていても苦痛を感じにくい。
この温度設定は、利用者層を反映しているかもしれない。高齢者が多い地域では、80〜90℃の高温サウナは敬遠されることがある。心臓への負担を考えると、低温で長時間というスタイルの方が日常使いに適している。菊の湯の44℃という設定は、地域の利用者が安全に、そして継続的に使えるよう配慮された温度かもしれない。
44℃のサウナで、ゆっくりと下北の冬の冷えが解けていく。それで十分だ、と思えた。
女性浴室が23℃というのは、水風呂の温度として記載されている可能性もある。実際の施設状況については、訪問時に確認してほしい。いずれにせよ、男女ともに温浴スペースがあり、サウナ・水風呂の設備が整っていることは確かだ。
下北半島を旅するサウナ愛好家へ
下北半島を旅する人は、大間崎のマグロや仏ヶ浦の奇岩を目的とすることが多い。恐山(日本三大霊山のひとつ)へのお参りを目的とする人もいる。そういった旅程の中で、むつ市のサウナに立ち寄る人は少ないかもしれない。
しかし、恐山の参拝を終えてむつ市に戻り、菊の湯でサウナに入る——それは旅の終わり方として悪くない選択だ。恐山は標高700m以上の山岳地帯にあり、夏でも気温が下がりやすい。参拝で体を使った後に、下山して銭湯で温まる。そういうルーティンを持って下北半島を旅することは、この地域の豊かさをより深く体験することにつながる。
むつ市には「むつ科学技術館」という施設もあり、原子力と核燃料サイクルについて学べる展示がある。訪日外国人にも知られる観光スポットではないが、日本の原子力政策の歴史と現在を学べる貴重な施設だ。そういった知的な観光とサウナを組み合わせた旅が、下北半島では可能だ。
むつ市のサウナ事情
むつ市内でサウナに入れる施設は限られている。菊の湯のような銭湯サウナが、地域のサウナ需要の中心を担っている。下北半島の先端に近い大間や風間浦村には温泉旅館があるが、日帰りサウナを気軽に楽しめる施設としては、むつ市内の銭湯が最も使いやすい。
D'STYLEが東北のサウナ施設を巡る中で、下北半島は移動に時間がかかるエリアだ。盛岡から八戸経由でむつ市まで車で約3時間。青森市からフェリーで大畑港に渡るルートもある。どのルートで来ても、むつ市に着いたときには相応の疲れがある。菊の湯でサウナに入り、疲れを洗い流してから次の目的地へ向かう——そのワンステップが、長旅をより快適にする。
FACILITY DATA
| 施設名 | 菊の湯 |
|---|---|
| 住所 | 青森県むつ市 |
| 種別 | 銭湯 |
| 営業時間 | 13:00〜(詳細は要確認) |
| 定休日 | 要確認 |
| 料金 | 480円〜 |
| サウナ | 男44℃・女23℃ |
| 外気浴 | なし(内気浴) |
| 男女 | 男女別 |
| 駐車場 | 要確認 |
| アクセス | 大湊線 下北駅よりタクシーまたは徒歩 / 八戸市内より国道338号で約2時間 |
下北半島の先まで来て銭湯サウナに入る——それは旅の豊かさのひとつだと思う。菊の湯は観光名所ではない。しかしむつ市という場所の日常を体験できる場所として、その価値は確かにある。マグロと恐山だけでない、もうひとつの下北半島の顔を、ここで見ることができる。