FACILITY DATA
| 施設名 | 天然温泉まつのゆ |
|---|---|
| 所在地 | 青森県上北郡東北町 |
| サウナ温度 | 男84℃ / 女70℃ |
| 水風呂温度 | 男18℃ / 女19℃ |
| 料金 | 330円 |
| 営業時間 | 05:00〜22:00 |
| 施設種別 | 温泉銭湯 |
330円という価格の重さ、東北町の地域温浴福祉
330円で天然温泉とサウナに入れる。この価格は青森県内でも際立って安い水準だ。一般的な地域銭湯が450〜500円台の中で、330円という設定は何かを意味している。東北町の人口は約1万5千人。小川原湖を擁する農業・漁業の町であり、高齢化も進む。こうした地域では、入浴施設を「福祉的インフラ」として捉え、住民が毎日気兼ねなく通えるよう価格を抑えている施設がある。まつのゆはそうした精神の体現だと感じる。
「まつのゆ」という名前は、松の木あるいは「松の湯」という、古くから各地の銭湯に親しまれてきた屋号に由来すると思われる。松は常緑樹であり、一年を通じて青々と茂る長寿と生命力の象徴だ。地域の湯として何十年も根付き続ける姿と重なる。
小川原湖と東北町の地熱資源
東北町は青森県の中東部、下北半島と津軽半島の根元にあたる位置にある。東には小川原湖(こがわらこ)が広がる。小川原湖は青森県最大の湖で、汽水湖として知られ、シジミ・ヤマトシジミの産地としても有名だ。湖の底には地下資源が眠り、周辺では石油・天然ガスの採掘が行われてきた歴史がある。こうした地熱的・地質的な背景が、東北町周辺の温泉資源と無関係とは言えないだろう。
「天然温泉」を冠するまつのゆの湯は、こうした東北町の地下資源と地域の水環境を反映している。循環・濾過のみに依存せず、地から湧く温泉成分を楽しめることが、330円という価格以上の価値を施設に与えている。
「朝5時に湯に入り、サウナで温まって田んぼへ向かう。それが東北の農業地帯の本当の朝だ。」
朝5時開湯の意味、農業地帯の早朝サウナ
全国的に見ても、朝5時から営業している銭湯・温泉施設は珍しい部類に入る。東北町のような農業地帯では、夏の農繁期に夜明け前から作業を始める農家が少なくない。午前5時開湯は、その日の農作業の前に体を温め、精神を整えてから農地へ向かうという実用的な需要に応えている。あるいは農業シフト明けの夜勤者が、朝方に体の疲れを取りに来るという使い方もある。
夜22時までの長い営業時間と組み合わせると、1日17時間の営業という実質的な施設運営になる。これは地域の湯文化がいかに生活と密着しているかを示す数字だ。
男84℃・女70℃、家族で使えるサウナ温度設計
男湯の84℃はしっかりとした発汗が期待できる一般的な乾式サウナの温度帯だ。女湯の70℃は、高温が苦手な方でもゆっくり体を温められる設定で、長時間利用に向いている。農家の奥さんが農作業後に体の疲れをじっくりとほぐすには、70℃の穏やかな熱は合理的な選択だ。
水風呂は男18℃、女19℃と、ほぼ同等の温度設定だ。この温度帯は、激しい温冷交互浴を求める層にはやや物足りないかもしれないが、地域住民の幅広い年齢層が心地よく使えるちょうどよい冷たさと言える。東北の寒冷地気候の中では、夏でも地下水温が低く抑えられ、自然な水温でこのくらいになることが多い。
D'STYLEが見た東北町の温泉文化
私(橋本大治)が東北の各地を訪れる中で感じるのは、青森・秋田・岩手の農村地帯に共通する「湯の民主性」だ。豪華なスパでも有名なリゾートでもなく、誰もが毎日通える安心感のある湯。それが東北の地域温浴文化の核にある。まつのゆはその典型だ。
D'STYLEではHARVIAサウナの販売・施工を通じて自宅サウナを広めているが、こうした地域施設の存在価値を否定する気は一切ない。自宅サウナは孤独な体験、地域の湯は共同体の体験。二つは補完的な関係にある。東北町に来る機会があれば、まつのゆで地元の空気に浸ることをお勧めしたい。