津軽半島の最北端、義経伝説の地でととのう
盛岡から北へ車を走らせると、やがて青函トンネルの入口を横目に、津軽半島がぐいぐいと北へ突き出していく。外ヶ浜町三厩――ここは本州の最果てに近い地だ。竜飛岬まで車でわずか数分、天気の良い日には津軽海峡の向こうに北海道が見渡せる。そんな「北の終着点」とも呼べる三厩の集落に、「みんまやよしつねの湯」がある。
施設の名は地名に由来する。「三厩」という字は難読で、「みんまや」と読む。源義経が兄・頼朝の追討を逃れ、蝦夷(現在の北海道)へ渡ったとされる伝説の地だ。義経は竜飛岬の岩屋で3頭の神馬を得て、海を渡ったという。「厩(うまや)」が三つ並んだ漢字がそのまま地名になった。よしつねの湯という名前には、この地に根ざした歴史と、かつて旅人が身を清めた場所としての祈りが込められているように思える。
D'STYLEは岩手・青森・秋田を拠点にサウナ設備の設計・施工を手がけている。私たちがこの施設を訪れたのは、青森各地のサウナ事情を調査するためだったが、正直なところ「こんな辺地にまで」という驚きと、「だからこそ来た」という興奮が混在していた。
施設データ — FACILITY DATA
FACILITY DATA
| 施設名 | 外ヶ浜町健康増進センター みんまやよしつねの湯 |
|---|---|
| 住所 | 青森県東津軽郡外ヶ浜町三厩地区 |
| 営業時間 | 10:00〜20:00 |
| 料金 | 400円〜 |
| 種別 | 銭湯(公共施設) |
| サウナ温度 | 男:93℃ / 女:93℃ |
| 水風呂温度 | 男:16℃ / 女:20℃ |
最果ての地にある、予想を超えたサウナ体験
外ヶ浜町は人口数千人の小さな自治体で、三厩地区はさらにその北端。最後のコンビニはずっと手前に置いてきた。そんな場所に、本格的な公共温浴施設があることじたいが驚きだ。健康増進センターという名称からも、行政が住民の福祉のために整備した施設であることが伝わってくる。
施設に入ると、地元のご高齢の方々が思い思いにのんびりしている。観光客の姿はほとんどない。完全に地域の人々のための場所だ。受付で400円を払い、脱衣場へ。清潔に管理されており、古さはあるが不快さはない。
サウナ室は93℃。数字だけ見れば標準的だが、実際に入ると体感温度は高い。乾燥したドライヒートが身体を包み、汗が一気に噴き出してくる。サウナストーンを積んだシンプルなストーブが、揺るぎない熱を放っている。「本物のサウナ」という印象を受けた。
93℃の乾いた熱と、津軽海峡の冷気を含んだ16℃の水風呂。この組み合わせは、最北の地にふさわしい凛とした刺激だ。
16℃の水風呂と、最北の外気浴
水風呂は男湯で16℃。これはかなり冷たい部類だ。盛岡でも15〜17℃の水風呂を備えた施設はそれなりにあるが、それでも入るたびに心臓が締め付けられるような感覚がある。ここ三厩の水は津軽半島の自然が育てた水だ。身体が水に沈むと、その冷たさが外の空気感と一致している気がした。
外気浴のスペースこそ限られているが、屋外に出れば津軽海峡の潮風が吹く。晴れた日には北海道の山並みが水平線の向こうに見える。日本海側と太平洋側をつなぐ海峡の風を肌に感じながらのととのいは、ここでしか体験できないものだ。
女湯の水風呂は20℃とやや温かめ。それでも外気温が下がる季節には十分な冷却効果を発揮する。男女ともに設備が整っており、女性サウナーも安心して利用できる環境が整っている。
三厩と源義経伝説 ― サウナに宿る歴史のロマン
「よしつねの湯」という名に込められた義経伝説について、もう少し深掘りしたい。源義経が壇ノ浦の戦いで平家を滅ぼした後、兄頼朝との関係が破綻し、奥州藤原氏を頼って平泉へ逃れたことは歴史の教科書にある通りだ。しかし、義経伝説はそこで終わらない。
義経非衣説――義経は平泉で死なず、蝦夷地(北海道)へ逃れ、さらにはモンゴルへ渡ってチンギス・ハーンになったという伝説がある。その「北海道へ渡った地」として語り伝えられてきたのが、この三厩なのだ。義経が祈りを捧げると岩窟に三頭の白馬が現れ、それに乗って海を渡ったという。岩窟は「義経の厩(うまや)」と呼ばれ、それが地名の由来となった。
そんな伝説の地の温泉に浸かりながら、私はふと思った。義経も旅の疲れを癒すために水を浴びただろうか。歴史の彼方にある人物の足跡を想像しながら、93℃のサウナで汗を流す。時間を超えた旅人同士の、静かな共鳴があるような気がした。
地域の日常と、旅人の非日常が交差する場所
よしつねの湯は、地元住民の日常の場だ。常連らしきおじいさんたちがサウナ室でゆったりと言葉を交わし、お互いの健康を確かめ合っている。その会話は当然、津軽弁だ。訛りの強い言葉のやりとりが、サウナ室の熱気と混ざり合い、独特の空間を作り出している。
一方で、竜飛岬への観光途中に立ち寄る旅人も少なくない。「最北の温泉に入った」という体験の価値は、遠くから来た人間にとっては格別だ。400円という料金は、旅行者にとっても財布に優しい。
訪れる人は多くないが、それは単に交通アクセスの問題だ。実際に来た人の評価は高く、「こんな場所にこんな施設が」という驚きがある。遠くから来る価値は十分にある。
D'STYLE から見た、最北の公共サウナが持つ意味
私たちD'STYLEがサウナ設備の設計・施工を行うとき、常に考えるのは「その地域に根ざしたサウナとは何か」ということだ。よしつねの湯のような公共施設は、利益を追求するのではなく、地域住民の健康と生活の質を支えるために存在している。93℃のサウナも16℃の水風呂も、贅沢さとは無縁だが、本質的な意味でのサウナ体験を提供している。
過疎化が進む津軽半島の最北端で、このような施設が今も運営され続けていることに、深い意義を感じる。地域の高齢者が毎日通い、健康を維持できる場所。それは医療費を減らし、孤独を防ぎ、コミュニティを維持する機能を持っている。サウナは単なる趣味やレジャーを超えた、社会インフラとしての役割を担っているのだ。
HARVIAのサウナヒーターを扱う私たちは、そのような施設づくりを30年以上にわたって支援してきた。最果ての地で輝く小さな光のような施設に、私たちの仕事の意味を改めて確認した旅だった。