五所川原市で最初に経験した立佞武多(たちねぷた)まつりの記憶は、今も鮮明だ。高さ23メートルを超える巨大な人形灯籠が、市街地の細い道を揺れながら進んでくる。建物の3階から4階に相当する高さの灯籠が、狭い通りをすり抜けるように動く様は、現実のものとは思えない圧倒的なスケールだ。笛と太鼓と「ヤッテマレ、ヤッテマレ」の掛け声が重なり合って、夜の五所川原の空気を震わせる。あの体験の翌朝、私は「にこにこ温泉しうら」でサウナに入った。
立佞武多——23メートルの巨人が街を歩く
青森のねぷた・ねぶた祭りは全国的に有名だが、五所川原の立佞武多は特別な迫力がある。青森市や弘前市のねぶたが横長の扁平な形をしているのに対し、五所川原の立佞武多は文字通り「立て」に高く伸びた縦長の形が特徴だ。その高さは約23メートル。ビルの7〜8階に相当する。
この立佞武多の形式は明治時代に廃れてしまい、長い間途絶えていたが、1990年代に古い写真と記録を元に復元された。地域の人々が過去の文化を掘り起こし、莫大な労力をかけて復活させた。その執念とも言える郷土愛が、今の立佞武多を支えている。毎年8月に行われるまつりは、地元の工芸職人が一年かけて制作する新作灯籠が目玉であり、五所川原の人々にとってまつりは「見るもの」ではなく「作るもの・参加するもの」だ。
「にこにこ」という施設名は、まつりの時に五所川原の人々が浮かべる笑顔と通じるものがある。あの巨大な灯籠を完成させた時の達成感、まつりで街が盛り上がる時の一体感——そういう喜びの感情が凝縮されたのが「にこにこ」という言葉だと私は感じている。
津軽鉄道とストーブ列車の街
五所川原は津軽鉄道の起点でもある。津軽鉄道は五所川原から津軽中里まで20.7キロを結ぶ、旅情豊かなローカル線だ。その中でも冬季に運行される「ストーブ列車」は、私のような薪ストーブやサウナヒーターを扱う人間にとって、特別な意味を持つ存在だ。石炭ストーブを車内に設置し、乗客が車内で体を温めながら走る、日本でも珍しい暖房列車。冬の津軽の厳しい寒さの中で、鉄の箱の中の火が人々を温める——その光景は、私がサウナヒーターを通じて実現しようとしていることと、根本的に同じものを目指している気がする。
ストーブ列車の中では、車内販売のするめを石炭ストーブの上で炙って食べることができる。炭火で炙られたするめの香りが車内に漂い、乗客同士が自然に会話を始める。熱と人と食と——その組み合わせが生む親密さは、サウナとともに食事をするフィンランドの文化にもどこかつながるものだ。五所川原という街は、こういう「熱を囲む文化」が自然に息づいている場所だと感じた。
にこにこ温泉しうらの88℃
立佞武多まつりの翌朝というのは、特別な体の状態だ。夜遅くまで人混みの中に立ち、太鼓の振動を体全体で受け止め、歓声と掛け声の中に浸かった後は、体の興奮がなかなか抜けない。それでいて筋肉には疲労が蓄積している。そういう朝に、サウナは最高の解毒剤となる。
にこにこ温泉しうらのサウナ室は88℃。まつりの興奮が体に残っている状態でのサウナは、最初の入室からじわじわと汗が出る感覚が早い。体がまだ覚醒しているのか、発汗のスピードが普段より速い気がした。木の板の上に腰を下ろし、目を閉じると、昨夜の灯籠の光と太鼓の音が浮かんでは消えた。サウナは記憶を蒸留するような働きがある——そんなことを、熱気の中で感じていた。
水風呂は17℃。まつりの余韻で火照った体には、この17℃が特別に気持ちよく感じられた。水が体を包んだ瞬間に、まつりの熱量がすっと抜けていくような感覚。ととのいの椅子に座ると、体の奥に静かな空白が生まれた。五所川原の夏の朝の空気が肌に触れ、また少し汗が滲んでくる。ここで、三セット繰り返した。
「にこにこ」という名前の深さ
健康増進施設という性格を持つこの温泉の名前「にこにこ」は、一見単純に見えて、実は深い意味を持っていると思う。健康であることと、笑顔であることは、切り離せない関係にある。医学的な意味での健康増進だけでなく、人が笑顔になれる状態を作り出すこと——それがこの施設の目指すものだと読める。
五所川原の人々が立佞武多まつりで見せる笑顔と、にこにこ温泉で汗を流した後の笑顔は、おそらく同じ種類のものだ。体が心地よい状態にある時、人は自然と笑顔になる。それは強制された笑顔ではなく、体が「整っている」ことから自然に溢れ出す表情だ。サウナの「ととのい」も、突き詰めれば同じ状態——体と心が整って、自然に笑顔になれる状態——なのかもしれない。
五所川原を旅するなら
立佞武多まつりは毎年8月4日から8日に開催される。その時期に五所川原を訪れる価値は疑いなく、にこにこ温泉しうらをまつりとセットで組み合わせることをぜひ勧めしたい。まつりで体を使い切り、翌朝サウナで整える。その対比が、どちらの体験も際立たせてくれる。
まつりの時期でなくても、五所川原には冬のストーブ列車、岩木山への登山ルートとしての玄関口、そして津軽平野の農村風景という魅力がある。入浴料600円のにこにこ温泉しうらは、どの季節に訪れても五所川原の人々と同じ空気の中で体を整えさせてくれる。「にこにこ」という名前通りの、笑顔が生まれる温泉だった。
FACILITY DATA
| 施設名 | 五所川原市健康増進施設 にこにこ温泉しうら |
|---|---|
| 所在地 | 青森県五所川原市 |
| 入浴料 | 大人600円〜 |
| サウナ温度 | 約88℃ |
| 水風呂温度 | 約17℃ |
| 定休日 | 施設にご確認ください |
| 営業時間 | 施設にご確認ください |
五所川原は、津軽の中でも特に「エネルギー」を感じる街だ。立佞武多の巨大な灯籠を作り上げる職人の情熱、ストーブ列車で厳冬期も路線を守り続ける人々の粘り強さ、そしてにこにこ温泉で市民の健康を支え続ける地道な営み。その全てが五所川原という街の活力をなしている。その活力の中でととのった体験は、また五所川原に来たいという気持ちとともに残った。