十和田市の奥、山に向かって車を走らせると、集落の気配が薄くなるころに「猿倉温泉」の看板が現れる。元湯という言葉が示すとおり、この温泉は昔からこの土地に湧いてきた湯だ。かつては旅館として地域の人に親しまれ、時を経て現在は「さる倉サウナ」として新たな形で営まれている。
予約制のプライベートサウナという業態は、近年各地で見かけるようになったが、さる倉サウナはそれとは少し異なる雰囲気がある。ここに来ると「観光で来た」感覚よりも、「山の奥の温泉に招かれた」感覚に近いものがある。それは場所が持つ力だと思う。十和田の山は深く、静かで、時間の流れが少し違う。
猿倉温泉という場所の歴史
十和田市は奥入瀬渓流と十和田湖で全国に知られているが、市内には渓流沿いや山間部に複数の温泉地がある。猿倉温泉もそのひとつで、山中に湧く単純温泉ないし弱アルカリ性の湯が特徴とされてきた。「猿倉」という地名は山深い地であることを示し、昔から猿が水を飲みに来たという言い伝えがあるとも言われる。
山中の温泉地は開発の波に乗りにくい一方で、昔ながらの泉質と環境を保ちやすい。さる倉サウナが「元湯」という言葉を施設名に含めているのは、この場所の温泉としての歴史への敬意を示しているように感じられる。
事前予約制・貸切という体験の価値
さる倉サウナは事前予約制のプライベートサウナだ。1組貸切で、営業は9:30〜11:30の2時間枠。価格は22,000円からとなっており、これは1組で使う金額だ。2〜4名で割れば、1人あたり5,500〜11,000円となる。
「高い」と感じる人もいるかもしれない。しかし、プライベートサウナが提供する体験を考えると、その価値は別の角度から見える。他の客の目を気にせず自分たちだけの空間で過ごせる。サウナ室を独占できる。誰かが入ってくることなく、自分のペースで入退室できる。特定の人数(カップル、親友、家族)との特別な時間として使える——これらは公共の銭湯サウナでは得られない体験だ。
「山の中で、誰にも邪魔されない2時間。これが22,000円なら、特別な日に使いたいと思う」
74℃サウナの深い熱と12℃水風呂
さる倉サウナのサウナ室温度は74℃。高温サウナに慣れた人には「低めでは?」と感じるかもしれない。しかし、74℃のサウナには独自の良さがある。
高温サウナは短時間で強い熱ストレスを与えるが、中温(70〜80℃)のサウナはじっくりと、全身を均一に温めることができる。体の芯まで熱が届くのに少し時間がかかるが、その分「ゆっくり蒸される」感覚がある。フィンランドの伝統的なサウナも、80〜90℃程度が多い。74℃は決して「ぬるい」のではなく、じっくりと体を解きほぐすための温度だ。
水風呂は12℃。これは「冷たい」と素直に言っていい。シングル(10℃以下)に近い冷たさで、山中の湧水が使われているとすれば、その清冽さは市街地の銭湯水風呂とは別物だ。74℃から12℃というコントラストは約62℃。体の反応は明確で、水から上がった後の感覚はシャープだ。
十和田の自然とサウナ体験の相乗効果
十和田市周辺の自然は、青森の中でも特に豊かな部類に入る。奥入瀬渓流は日本でも有数の渓流景観を持ち、十和田湖は国立公園の中核だ。その豊かな自然に囲まれた場所でサウナに入るということは、熱と水だけでなく、空気・音・景色も体験の一部になる。
猿倉温泉周辺は夏は緑が濃く、秋は紅葉に染まる。冬は深い雪に包まれ、春は雪解け水が音を立てて流れる。季節ごとに景色が変わる中で、同じサウナが異なる体験を生む。外気浴のスペースがあれば、その空気を吸いながら体の回復を待つ——それが十和田の自然の中ではより深く感じられる。
十和田でのサウナ旅の組み方
さる倉サウナを核にした十和田サウナ旅を考えるなら、午前の枠(9:30〜11:30)を予約し、その後に奥入瀬渓流散策や十和田湖観光を組み合わせるのが自然な流れだ。昼食は十和田市内の「バラ焼き」(ご当地グルメ)で体を温める。十和田には他にも「十和田サウナ」(十和田湖畔のバレルサウナ)があり、同じ市内で異なるサウナ体験の対比を楽しむことができる。
D'STYLEが岩手・盛岡を拠点にしていることもあり、十和田方面は秋田・岩手経由でアクセスしやすい。東北自動車道の十和田ICから国道102号線を使い、十和田湖方向への道中にこの地域が広がる。盛岡から十和田ICまで約1時間30分、さら十和田市内へは30分ほど。日帰りで往復できる距離感だ。
FACILITY DATA
| 施設名 | さる倉サウナ(元湯 猿倉温泉) |
|---|---|
| 住所 | 青森県十和田市 |
| 施設タイプ | プライベートサウナ(事前予約制・貸切) |
| 営業時間 | 9:30〜11:30(1枠) |
| 料金 | 22,000円〜(1組貸切) |
| サウナ | 男女共用 約74℃ |
| 水風呂 | 約12℃ |
| 利用形態 | 1組完全貸切・事前予約制 |
| 男女 | 男女共用 |
秘湯という言葉には「努力して辿り着く価値がある場所」という意味合いがある。さる倉サウナは、その意味で秘湯のサウナだ。予約して、山道を走り、ひっそりとした場所に着く。2時間、自分たちだけの時間を過ごす。帰りの道で、十和田の景色がまた少し違って見える——そういう体験がここにある。