十和田湖は、カルデラ湖だ。約2万年前の火山噴火によって大地が陥没してできた盆地に、雨水と湧水が溜まり続けて今の姿になった。周囲46km、最深部が326mという深さを持つ湖の水は、透明度が12mある。水の中を12メートル先まで目で追えるということだ。その湖の岸辺に、バレルサウナが一棟立っている——それが十和田サウナだ。
宇樽部キャンプ場は十和田湖の南岸に位置する。十和田ICから車で約1時間、山道を走り続けてキャンプ場の入口に着くと、管理棟でスタッフが出迎えてくれる。そこから先は、車でさらに湖岸へと進む。木立の間から突然、湖の水面が現れる。「ここまで来たか」という感覚がある。都市の喧噪がどこか遠いものになっている。
十和田湖という場所の背景
十和田八幡平国立公園に指定されているこの一帯は、国立公園の中でも特別に開発が制限されている。湖畔に立てる建物は限られており、湖の水質を守るための規制が厳しい。十和田湖の水が今も透明度12mを保っているのは、そういう管理の蓄積だ。北東北の山々に降った雨が地中に染み込み、何十年もかけて湖へと流れ込む。その水は生活排水に触れることなく、ほぼ純粋な状態で湖に到達する。
湖岸の森にはブナ、ナラ、カエデが繁っている。春は新緑が幾重にも重なり、夏は蝉の声と波の音が交差し、秋は紅葉が湖面に映る。冬は積雪が1mを超え、湖畔への道がスノーシューなしでは歩けなくなる。四季それぞれに、ここにしかない景色がある。
ロシア製バレルサウナと、HALVIAの薪ストーブ
バレルサウナは樽型の木製サウナ小屋だ。ロシアから直輸入された本格的なものが、湖岸に置かれている。内部は4〜5人が入れるサイズ、L字の座面が一段。天井が低く丸く、木の香りが強い。窓が一枚あり、そこから湖面が見える。
使われているストーブはHALVIA(ハルビア)の薪ストーブだ。フィンランドのHARVIAは世界最大のサウナヒーターメーカーとして知られているが、薪モデルは特に薪が燃える音と、石に蓄積される熱の質が際立っている。サウナストーンには八甲田山の古い火成岩が使われており、長年の火山活動が生んだ岩が、その下で燃える薪の熱を吸収してゆっくりと放出する。ストーブが発する「パチパチ」という音が、室内の唯一の音だ。テレビも音楽もない。
ロウリュのアロマ水には、クロモジが使われている。クロモジはクスノキ科の落葉低木で、東北の山中に自生する。小枝や樹皮から採れる精油は、透き通った清涼感のある香りを持ち、日本の高級爪楊枝の材料としても知られる。バレルの中にクロモジのアロマ水をストーンに注ぐと、蒸気が湧き上がりながらその香りが室内を満たす。焚き火の匂いと混ざり合って、十和田の森の香りが凝縮されたような空気になる。
「すばらしい」という言葉が自然と発せられる。言葉が出るのは、言葉で表現したいからではなく、表現しきれないからだと思う。
十和田湖そのものが水風呂
バレルサウナを出ると、数メートル先に湖岸がある。スタッフに「潜っていいですか」と聞くと、「どうぞ、汗もそのままで入れますよ」と言われる。サンダルを履いたまま湖へ入る。岸から10mほどは徐々に深くなるが、足が着く。それより先は急に深くなる。
夏の水温は10〜12℃。冬は2〜3℃になる。「シングルの水風呂くらい冷たい」という表現が実際に使われているが、不思議なことに、いわゆる銭湯の冷水風呂ほど攻撃的な冷たさを感じない、という声が多い。透明度12mの水は清らかで、肌に当たったときの感触が柔らかい。カルデラ湖の水は地表の水が長期間かけてろ過されたもので、カルシウムやマグネシウムの含有量が少なく、いわゆる「超軟水」に近い。その水が全身を包む。
岸近くで浅いところに寝転ぶことができる。背中が砂地の湖底につき、胸が水面に出る。上には空だけ。10月になると紅葉が湖面を縁取り、その景色の中に自分が横たわっている。「ここに住んだら、清らかな人になれそう」——そう書いた人がいる。その感覚は誇張ではないと思う。
デッキチェアで整う、水音と風の中で
湖から上がると、スタッフがバスタオルを手渡してくれる。そのままデッキチェアに腰を下ろす。フィンランド製のバスローブに包まれ、波打ち際の音を聞きながら外気浴をする。
十和田湖の波は穏やかだが一定のリズムで打ち寄せる。風が出ると少し波が立ち、水音のリズムが変わる。その変化を、ぼんやりと追っているうちに体が沈んでいく。目が覚めているのか眠っているのかわからない状態——いわゆる「ととのい」の状態が、ここでは静かに、深く訪れる。
春から秋にかけては、デッキチェアから正面に湖を見渡せる。対岸の山の稜線、水面の光の揺れ、空の雲の流れ——全部が動いていて、全部が静かだ。冬は雪が降り積もる中での外気浴になる。バスローブとサウナハットを身につけ、白い世界の中で湖面を見ている。「360度の自然しかない」という状況は、日常の中ではほとんど体験できない。
スタッフのもてなし、クロモジ茶とアメニティ
十和田サウナの体験は、施設のハードだけでできているのではない。スタッフのもてなしが体験を作っている。
到着すると、スタッフが集合場所で出迎えてくれる。冬はスノーウェアとスノーシューを貸してくれて、雪の森を一緒に歩く——それ自体がアクティビティになる。サウナ小屋に着くと、バスタオル・バスローブ・サウナハット・サンダル・ミネラルウォーターが用意されている。クロモジ茶と手製のクッキーが振る舞われる(持ち帰り可)。こういう細部の準備が、はじめて来た人でも自然に体験に入れる環境を作っている。
スタッフは薪をくべる以外は黒子に徹する。声をかけてくれるタイミングが絶妙で、邪魔にならない。「穏やかな口調、静かな動作で、心を沈めてくれるような存在」という印象を持つ人が多い。自然の中のサウナという体験の質は、場所だけでなく人によっても作られている。
予約方法とアクセス、季節ごとの注意点
十和田サウナは完全予約制・1組貸切だ。2時間で1日2〜3枠しかない。夏季(4〜9月)は9:00〜11:00 / 12:00〜14:00 / 15:00〜17:00の3枠、秋季(10〜11月)は2枠に絞られる。予約はウェブサイト(towadasauna.com)から受け付けており、人気の日程は早めに埋まる。
料金は夏季23,000円〜(1〜2名)、冬季は33,000円〜(1〜2名)、3〜4名では45,000円〜になる。1人あたりに換算すれば数千円から1万円台だが、「ここでしか体験できないこと」に対して払う金額としては、多くの人が「妥当」と感じている。シャワーや風呂は設備にないため、入浴を済ませてから来るか、帰り道で入浴施設に立ち寄るルートを組んでおくとよい。
アクセスは十和田ICから車で約40km・約1時間。最寄り駅(八戸駅・新青森駅)からはJRバスまたはレンタカーになる。十和田湖周辺にはコンビニがないため、飲み物や軽食は事前に準備しておくこと。冬季(12〜3月)は道路の閉鎖状況を「青森みち情報」で確認してから向かうことを強く勧める。
FACILITY DATA
| 施設名 | 十和田サウナ |
|---|---|
| 住所 | 青森県十和田市奥瀬十和田湖畔宇樽部 宇樽部キャンプ場内 |
| アクセス | 東北自動車道・十和田ICより約40km・約1時間 / 八戸駅・新青森駅よりJRバス(下宇樽部下車徒歩15分)またはレンタカー |
| 駐車場 | あり(無料) |
| 営業時間 | 4〜9月:9:00〜11:00 / 12:00〜14:00 / 15:00〜17:00(3枠) 10〜11月:10:00〜12:00 / 14:00〜16:00(2枠) 冬季(12〜3月):詳細は公式サイト参照 |
| 定休日 | なし(道路閉鎖による休業あり) |
| 料金 | 夏季 1〜2名:23,000円〜 / 3〜4名:要確認 冬季 1〜2名:33,000円〜 / 3〜4名:45,000円〜 |
| 利用形態 | 1組完全貸切・2時間制・事前予約必須 |
| サウナ | ロシア製バレルサウナ / 薪ストーブ(HALVIA)/ セルフロウリュ可 / 約100℃ / 4〜5人収容 / テレビ・音楽なし / ストーン:八甲田火成岩 |
| ロウリュ | セルフロウリュ可(アロマ水:クロモジ) |
| 水風呂 | 十和田湖そのもの / 透明度12m / 夏10〜12℃・冬2〜3℃ / 水深:岸から徐々に深く・足がつく範囲あり |
| 外気浴 | デッキチェア4席・湖畔 |
| 男女 | 水着着用・男女共用 |
| タトゥー | 可 |
| 支払い | 現金・クレジットカード |
| アメニティ | バスタオル・バスローブ・サウナハット・サンダル・ミネラルウォーター(全て無料)/ クロモジ茶・クッキー提供 |
| シャワー・風呂 | なし(近隣の温泉施設を利用) |
| 予約 | towadasauna.com よりウェブ予約 |
十和田サウナは、「整う場所」というより「自然に帰る場所」だと思う。フィンランドや北欧のサウナ文化が「自然の中で蒸気に打たれ、湖に入り、静かに過ごす」ことを本質としているなら、十和田サウナはその文化を十和田湖という場所に重ねた体験だ。バレルサウナはロシア製で、ストーブはフィンランド製で、使う木や水はすべて青森・十和田のものだ。世界から来たものと、この土地のものが組み合わさって、ここにしかない体験ができている。
青森を訪れる機会があれば、十和田サウナを旅程の中に入れることを強く勧めたい。日帰りでも行けるが、前夜に十和田湖周辺に泊まり、朝の湖の静けさを経験してからサウナへ向かうのが理想だ。帰り道に発荷峠(十和田湖を見下ろす展望台)に立ち寄ると、湖全体がどれほど大きな空間の中にあるかが改めてわかる。