青森市の銭湯サウナを調べ始めると、ほどなく「徳の湯」という名前に行き着く。地域の人々にどれだけ支持されているか、常連客の数が物語っている。盛岡から車で東北自動車道を北上し、青森ICを降りてすぐの市内。日帰りの調査のついでに立ち寄ることが多いが、訪れるたびに「なぜここにこれだけの人が集まるのか」が体でわかる。
施設は青森市内の住宅街に構える銭湯だ。外観は地域密着型の昭和銭湯の佇まいで、ガラス戸を開けると番台か受付スタッフが出迎える。脱衣所は広くはないが、地元の常連客たちの動線が自然に定まっていて、初見でも入りやすい雰囲気がある。営業時間は9時半から22時。朝から夜まで、青森市民の一日のどこかに「徳の湯」が組み込まれている。
99℃という温度——なぜここまで熱くするのか
男湯のサウナは99℃だ。銭湯サウナとしてはかなりの高温で、入室した瞬間に空気の重さを感じる。フィンランドのサウナが通常85〜90℃程度であることを考えると、99℃はそれを超える温度設定だ。なぜこれほど高いのか。
東北の銭湯サウナに高温設定が多い背景には、地域の気候と習慣がある。冬の気温が氷点下になる青森市では、体を芯から温めることへの需要が高い。皮膚の表面だけでなく、筋肉の深部まで熱を通したい。その感覚が積み重なって、「高ければ高いほどいい」という文化が銭湯の熱管理に反映されてきた。フィンランドのサウナが「白樺で汗を出す」という文化なら、東北の銭湯サウナは「厳冬に備えて体を焼く」という文化に近い。
女湯も92℃と高温だ。男女ともに高い設定を維持していることは、この施設が「温度」にこだわり続けてきた証拠だ。ガスサウナ、電気サウナのどちらにしても、99℃を安定的に出し続けるためには定期的なメンテナンスと熱管理が必要だ。その管理が行き届いているから、毎日通っても「今日は温度が低い」という失望がない。
青森市の中でも、温度への高いこだわりと長年の常連客を持つ銭湯だ。
水風呂20℃——体温の境界線
男湯の水風呂は20℃だ。これは「ととのい」の観点からちょうど良い温度帯に入る。銭湯の水風呂の中でよく見られる18〜22℃という帯域で、体が素直に反応する冷たさがある。
人体の皮膚温度は通常32〜34℃で、水風呂に20℃の水が触れると大きな温度差を感じる。毛細血管が収縮し、心拍が上がり、体の深部に血液が集まる。これが99℃のサウナから20℃の水風呂に移ることで起きる生理的変化だ。外気浴でその緊張が解けると、末梢血管が再度拡張し、体全体に血液が巡る感覚——これがいわゆる「ととのい」の正体だ。
女湯の水風呂は23℃。男湯より3℃高い。水風呂の温度は施設によって男女で差をつけることが多く、一般的に女性の方が高めに設定されることが多い。体温を急激に下げることへの配慮と、利用者の好みへの対応が理由とされる。23℃でも十分に冷たく、92℃のサウナとの落差はしっかりある。
青森市という場所、銭湯の役割
青森市は青森県の県庁所在地で、人口は約27万人。東北新幹線の終点・新青森駅があり、青森港からは北海道へのフェリーが出る。津軽海峡に面した港町でもあり、冬の寒さと雪は厳しい。年間降雪量は国内の主要都市の中でも最多クラスで、積雪が1mを超えることも珍しくない。
そういう冬の厳しい土地では、温かい場所に集まることが自然な習慣になる。銭湯は単なる入浴施設ではなく、地域のコミュニティスペースとして根づいてきた。常連客同士が顔を合わせ、季節の話をし、サウナの温度について議論する。そういう日常のやり取りが、銭湯に人を集め続ける力を生む。
徳の湯の根強い人気は、単に「良いサウナだから」というだけではないと思う。青森市に暮らす人々の日常の一部になっているから、これだけの常連が続いているのだ。毎日通う人、週に数回通う人、遠征して来る人——それぞれの理由でここに来る人たちが、徳の湯という場所を作っている。
地元銭湯の作法と空気
地元密着の銭湯には、常連客の間で形成された暗黙のルールがある。サウナ室の中での話し方、水風呂の使い方、脱衣所での立ち振る舞い。こういうことは壁に書いてあるわけではないが、その場所に何度か来ればわかってくる。
徳の湯は、はじめて訪れる人間にとってもそれほど敷居が高い場所ではない。地元の常連客が多い分、雰囲気は落ち着いていて、よそから来た人間が変に目立つことはない。サウナの中で目を閉じて黙っていれば、それが正解だ。水風呂に入るタイミングも、他の人の動きを見ていれば自然とわかる。
盛岡から青森に来るとき、仕事の打ち合わせや現地調査のスケジュールの合間に時間が余ることがある。そういうとき、ホテルに戻って時間をつぶすよりも、こういう銭湯に入ってサウナに座る方がずっといい。仕事の疲れが99℃の中で溶けていく感覚は、東北の銭湯ならではのものだ。
サウナ後の青森を歩く
徳の湯を出た後、体がほどよく軽くなる。99℃のサウナと20℃の水風呂を何セットかこなした体は、血の巡りが良くなって頭が澄んでいる。そのまま青森市内を少し歩くのが、私の個人的な楽しみ方だ。
青森市内には、ねぶた祭りに使われた山車の展示施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」や、青森港に面した「A-FACTORY」など観光スポットがある。しかしサウナ後にそういう観光地に向かうより、普通の商店街を歩くほうが地元の気配を感じやすい。青森の言葉が聞こえ、店の棚に並ぶものが違い、看板の雰囲気が違う。そういうものが入ってきやすい状態に、サウナ後の体はなっている気がする。
青森市に来たら徳の湯に入れ、と強く言いたい。99℃の熱さを体で受け取って、20℃の水で洗い流す。それだけで、青森の地を少し深く踏んだ気持ちになる。
FACILITY DATA
| 施設名 | 徳の湯温泉 |
|---|---|
| 種類 | 銭湯 |
| 住所 | 青森市内 |
| 営業時間 | 09:30〜22:00 |
| 料金 | 480円〜 |
| サウナ(男) | 99℃ |
| サウナ(女) | 92℃ |
| 水風呂(男) | 20℃ |
| 水風呂(女) | 23℃ |
| 特徴 | 青森市銭湯で圧倒的な人気。地元常連客に支持される高温サウナの名銭湯 |
東北のサウナ施設を巡り続けて思うのは、地域ごとに「サウナの熱さ」への感覚が少しずつ違うということだ。青森はその中でも熱い側にいる。海の寒さと山の寒さを知っている人たちが、体を焼くことへの感覚を育てているのかもしれない。徳の湯はその感覚が結晶化した場所だ。