FACILITY DATA / 施設情報
| 施設名 | bon-sauna U|盆宿U フィンランド式蔵サウナ |
|---|---|
| 住所 | 秋田県雄勝郡羽後町西馬音内字中町 |
| 建物 | 築180年の商家(林業の資材庫だった蔵を改装) |
| サウナ | フィンランド式蔵サウナ 105℃(プライベート)・100℃(パブリック) セルフロウリュ可 定員6名 |
| 水風呂 | 地下水 13℃・15℃(西馬音内の地下水かけ流し) |
| 外気浴 | フルフラット対応イス 6席 |
| 料金 | パブリック(女性)2,500円〜 / プライベート(1〜2名)7,000円〜 ※料金・時間帯は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください |
| 特色 | 西馬音内盆踊りをテーマにしたロウリュアロマ(杉宮精香堂共同開発) 編笠モチーフのオリジナルサウナハット 藍染浴衣モチーフの館内着 |
| 宿泊 | 盆宿Uとして宿泊プランあり(文化交流施設) |
| 公式HP | u.bon-yado.jp |
秋田県南部の羽後町は、「日本三大盆踊り」の一つ「西馬音内盆踊り」で知られる町だ。毎年8月、西馬音内地区の通りで3日間にわたって続くこの盆踊りには、全国から人が訪れる。端縫い衣装と彦三頭巾をつけた踊り手が、篝火のそばで静かに、しかし力強く踊る姿は、日本の民俗文化の原型を見るような体験だ。
その西馬音内の中心地に、盆踊りをテーマにしたサウナがある。bon-sauna Uだ。「盆」と「bon(フィンランド語でも「本質的な」という意味を連想させる)」を掛けた施設名に、この場所の設計思想が凝縮されている。2026年1月にフィンランドのサウナを視察した私が、「フィンランドのサウナに最も近い空気感を持つ秋田の施設の一つ」として注目している場所だ。
築180年の商家蔵という素材
盆宿Uの本体は、築180年の商家を再生した文化交流施設だ。その商家が林業を営んでいた時代、資材庫として使っていた蔵がある。その蔵を改装してフィンランド式サウナにしたのがbon-sauna Uだ。
180年という年月は、現代の建築基準では考えられない時間だ。この蔵が建てられたのは江戸時代末期にあたる。当時の大工が手刻みで作った木組みが、今も建物を支えている。そこにサウナが入っている。
私が木材を扱う仕事をしてきた経験から言えば、時間が経った木材は「枯れる」。乾燥が進み、樹脂分が固まり、木の細胞が安定する。その安定した木材が作る空間は、新材の空間とは異なる落ち着きがある。蒸気を吸うと、木は反応する。古い木材は、その反応がゆっくりで深い。
105℃という温度とセルフロウリュ
プライベートサウナは105℃。パブリックは100℃。この温度帯は、フィンランドの本格的なサウナと同等の水準だ。
2026年1月、ヘルシンキとタリンのサウナを巡った際、フィンランドの公衆サウナの温度は90〜110℃の範囲にあった。「熱ければいい」のではなく、100℃を超える温度域では、空気の乾燥度と蒸気の質が重要になる。セルフロウリュで自分のペースで水をかけることで、湿度を調整しながら入れる設計は、フィンランドのサウナの本質に近い。
bon-sauna Uのロウリュには、特別な水が使われる。西馬音内の地下水で、かつて羽後町の銘酒「若返り」の仕込み水として使われていた水と同じ系統の地下水だ。この水をロウリュにかけると、蒸気に地域の水の成分が乗る。「若返り」という酒名が示す清冽な水質が、サウナの空気を作る。
西馬音内盆踊りをロウリュの香りに変える
bon-sauna Uには、他のサウナにない要素がある。西馬音内盆踊りの夜を「香り」で表現したロウリュ専用アロマだ。
このアロマは、羽後町のアロマブランド「杉宮精香堂」とbon-sauna Uが共同開発した。西馬音内盆踊りの夜に漂う篝火の煙、端縫い衣装の藍の香り、夏の夜の草の匂い。そういった感覚的な記憶を香りの形に変換したものだ。
ロウリュをすると、その香りが蒸気とともに広がる。105℃の熱の中に、西馬音内の夜が立ち上がる。これは「演出」ではなく、地域の文化をサウナという体験に結びつける真剣な試みだと私は思っている。
フィンランドでも、サウナにヴィヒタ(白樺の枝葉を束ねたもの)を使う文化がある。白樺の香りが蒸気に混じることで、フィンランドの夏の森の空気がサウナ室に入ってくる。bon-sauna Uの盆踊りアロマは、同じ発想をローカルな文化で実現している。
地下水13℃の水風呂と「若返り」の系譜
水風呂は13℃と15℃の二種類。西馬音内の地下水がかけ流しで入っている。13℃は、体に「鋭い冷たさ」として刺さる温度域だ。入った瞬間に末梢血管が一気に収縮する感覚がある。105℃からの落差が約92℃。この落差は、フィンランドのサウナと湖の水の関係に近い数値だ。
「若返り」は、羽後町を代表する日本酒の銘柄だ。その仕込み水と同じ系統の地下水が水風呂に流れているということは、この水が羽後町の風土と深くつながっていることを意味する。良質な仕込み水が生まれる土地は、地質的に清冽な水が湧く土地だ。その水が水風呂になる。
田んぼを見ながらの外気浴
bon-sauna Uの外気浴スペースからは、羽後町の田園風景が見える。フルフラットになるイスが6席ある。都市のサウナの外気浴と最も違う点は、この「田んぼが見える」という事実だ。
田んぼは、秋田という土地の根本的な景観だ。米どころとして全国に知られる秋田の農業は、この景観の中で営まれてきた。水田に映る空、稲の匂い、田んぼ道を渡る風。整いの状態で、その風景の中に横たわる。
私はフィンランドで、湖畔のサウナから出て冷たい湖に飛び込み、浮かびながら白夜の空を見上げた。あの時の「場所と体が溶け合う感覚」に最も近いものが、日本にあるとしたら、田んぼの外気浴かもしれないと思っている。田んぼは日本の湖だ。水と空が広がる、この土地の原風景だ。
西馬音内盆踊りという文化とサウナ
西馬音内盆踊りは、毎年8月22〜24日に行われる。盆踊りの期間、羽後町には全国から人が集まる。その人々が宿泊し、翌朝サウナに入る場所として、bon-sauna Uは機能している。
盆踊りを観て、翌朝サウナで体を整えて帰る。そういう旅の動線を、この施設は設計している。観光と日常のサウナが、同じ場所でつながっている。
「盆(お盆)」という言葉が施設名に入っているのは、単に盆踊りへのオマージュだけではないと私は思う。お盆は、先祖が戻ってくる時間だ。過去と現在が重なる時間。築180年の蔵でサウナに入ることは、時間の重なりに身を置くことでもある。
編笠モチーフのサウナハットと藍染の館内着
bon-sauna Uには、施設のコンセプトを体で感じさせる小道具がある。西馬音内盆踊りの踊り手が顔を隠すために使う「彦三頭巾」に使われる編笠モチーフのサウナハットと、藍染浴衣をモチーフにした館内着だ。
サウナに入る前に、これらを身につける。盆踊りの踊り手に近い装いで、蔵の中に入る。105℃の蒸気の中で、盆踊りの夜を香りで感じる。これは「テーマパーク的な演出」とは異なる。地域の文化に対する敬意を、体験の設計に落とし込んだものだ。
盛岡から羽後町まで、サウナのために走る道
盛岡から羽後町まで、東北道→湯沢横手道路で約2時間。横手市を経由して羽後町に入る道は、秋田の農村風景の中を走る。盛岡を出てから山を越え、秋田の田園地帯に入る頃、旅の目的地としての羽後町が近づいてくる感覚がある。
8月の盆踊りの時期に合わせて来るのが一番の形だが、それ以外の季節にも施設は営業している。盆踊りの夜の香りは、季節を問わずサウナ室に満ちている。