FACILITY DATA / 施設情報
| 施設名 | 金浦温泉 学校の栖(がっこうのすみか) |
|---|---|
| 住所 | 秋田県にかほ市大竹字硫黄谷地31-2 |
| 営業時間 | 日帰り入浴 6:00〜21:00(受付は20:00まで) |
| 料金 | 早朝サービスタイム(6:00〜11:00)500円 通常(11:00〜21:00)600円 / 土日祝 700円 ※料金は変更になる場合があります。最新料金は公式サイトでご確認ください |
| サウナ | 102℃ セルフロウリュ(ロウリュ水は場内鉱泉使用) |
| 水風呂 | 14〜17℃(平均15℃) 定員2名 |
| 温泉 | 硫黄温泉・ラジウム鉱泉(各40名まで) |
| 外気浴 | 屋外木製ベンチ |
| 宿泊 | 全16室(6畳〜18畳) |
| アクセス | 象潟ICから車約5分 / JR金浦駅から徒歩約20分 |
| 駐車場 | 50台(無料) |
| TEL | 0180-38-3883(受付 8:00〜19:00) |
| 公式HP | onsen-sumika.com |
秋田県にかほ市の山裾に、木造の古い校舎が残っている。「金浦温泉 学校の栖」という名の温浴施設だ。「栖(すみか)」という漢字が選ばれているところに、この場所への敬意が見える。廃校になった小学校を取り壊して新しい建物を建てるのではなく、そのまま「棲みかにする」という選択をした。
私がHARVIAのサウナヒーターを東北で扱うようになって以来、「施設の設計思想」に興味を持つようになった。サウナという空間は、建物の素性をそのまま引き継ぐ。ここ学校の栖は、木造の廃校という素性を持っている。その素性が、サウナの体験にどう影響するか。それを確かめたくて、鳥海山麓まで足を運んだ。
にかほ市大竹――廃校の門をくぐる
にかほ市は、秋田県の日本海沿岸南部に位置する。鳥海山の裾野が日本海に向かって落ちていく場所で、山と海が同時に視野に入る独特の地形をしている。「象潟(きさかた)」という地名で知られる景勝地が近く、松尾芭蕉が「奥の細道」で「象潟や雨に西施が合歓の花」と詠んだ場所でもある。
金浦温泉の「金浦(このうら)」は、地区の名前だ。にかほ市金浦は日本海に面した漁港の町で、金浦港には今も漁船が出入りしている。その少し内陸の山際に、この施設はある。
象潟ICを降りて車で5分ほど走ると、学校の栖に着く。駐車場に車を止めて建物を見ると、木造の雰囲気がそのまま残っている。渡り廊下、昇降口の庇、窓の並び方。新しい温浴施設とは異なる、時間の積み重なった空気がある。
大竹小学校という場所の記憶
この建物は元々、大竹小学校だった。明治7年(1874年)に開校し、昭和55年(1980年)に閉校するまで、100年以上にわたって地域の子どもたちが通い続けた学校だ。閉校後、建物は温泉施設として生まれ変わり、「学校の栖」という名前を与えられた。
校舎の中に入ると、教室だった空間がサウナや脱衣所に変わっている。廊下の幅、天井の高さ、窓の配置。どれも「温浴施設として設計された」ものではなく、「学校として作られたものを使っている」という感触がある。それが、この施設の空間的な個性になっている。
100年間、地域の子どもたちの声を吸った木材が今、サウナの蒸気を吸っている。そう考えると、温泉に浸かる体験の意味が少し変わる。ここは単なる温浴施設ではなく、場所の記憶の上に立っている。
セルフロウリュ102℃――鉱泉水を自分でかける
サウナ室は102℃。この数字は、東北の温浴施設の中でも高い部類に入る。フィンランドのサウナが一般的に80〜100℃前後であることを考えると、102℃というのは本格的な温度帯だ。
ここで印象的なのは、セルフロウリュができる点と、そのロウリュ水が場内の鉱泉水であるという点だ。普通のサウナでは水道水を使うが、学校の栖では硫黄泉やラジウム鉱泉の水をロウリュ用に用意している。ストーンにこの鉱泉水をかけると、蒸気に温泉の成分がわずかに混じる。室内の空気が、ただの熱い蒸気ではなく、温泉地の空気に近くなる。
2026年1月にフィンランドのサウナを視察した際、ロウリュに使う水の質について学んだ。フィンランドでも、清潔な湖の水や井戸水をロウリュに使う施設がある。水の成分が蒸気の質に影響する、という考え方は、実は日本の温泉地とも共鳴する。学校の栖のロウリュ水が鉱泉水である、という設計はその意味で理にかなっている。
セルフロウリュのペース配分は自分次第だ。静かに蒸気を感じたければ少量を細かくかける。一気に発汗させたければまとめてかける。この「自分でコントロールできる」という設計が、施設のロウリュへの向き合い方を示している。
硫黄とラジウム、二種類の湯
学校の栖の温泉は、硫黄温泉とラジウム鉱泉の二種類がある。この二つが同じ施設に共存しているのは珍しい。
硫黄温泉は、硫黄の匂いがする白濁した湯だ。肌への刺激が強く、長く浸かると体の奥から温まる。にかほ市大竹という地名に「硫黄谷地」という字が含まれていること(住所が「大竹字硫黄谷地」)からも、この地の地下に硫黄を含む温泉が豊富に湧くことがわかる。地名そのものが温泉の素性を語っている。
ラジウム鉱泉は、微量の放射性物質を含む鉱泉で、古くから療養目的で使われてきた温泉の一種だ。硫黄泉と比べると刺激が少なく、神経痛や疲労回復に効くとされている。
サウナ→水風呂の後に、どちらの湯に入るかを選べる。硫黄泉で汗を洗い流し、発汗後の体を温める。ラジウム鉱泉でゆっくり落ち着く。この選択肢があることが、「ただの温浴施設ではない」という体験を作り出している。
水風呂15℃は地下から湧く
水風呂は14〜17℃、平均すると15℃ほど。定員は2名と小さい。この温度帯は、いわゆる「羽衣」が形成されやすいゾーンに入る。入った瞬間にバシっと冷えるのではなく、ゆっくりと締まっていく感覚がある。
15℃という水温は、人工的に冷やして作るには相当なエネルギーが必要だが、山間部の地下水であれば自然にこの温度帯になる。にかほ市の山裾という立地を考えると、冷却設備に頼らずとも、鳥海山からの地下水が自然にこの温度を作り出している可能性がある。
水風呂の後に出て、体が落ち着く瞬間がある。その瞬間に、この場所の空気を吸う。木造の建物に包まれた、学校の残り香のような静けさがある。サウナの体験は、最終的には「どんな空気を吸うか」で決まると私は思っている。学校の栖の空気は、他の施設では味わえないものだ。
外気浴と鳥海山の稜線
外気浴スペースには、木製のベンチが並んでいる。華やかなインフィニティプールや、デザインされたととのいチェアがあるわけではない。木のベンチが、外の空気に向かって置いてある。それだけだ。
でもそのシンプルさが、この施設には合っている。余計なものがないから、視線が遠くに行く。にかほ市の山裾から見える鳥海山の稜線は、季節によって雪をかぶっていることもある。日本海からの風が来ることもある。
鳥海山(標高2,236m)は秋田・山形の県境にそびえる成層火山で、「出羽富士」とも呼ばれる。この山の存在感が、にかほ市という場所の骨格を作っている。外気浴でその稜線を見ながら体を冷ます時間は、都市のサウナでは代替できないものだ。
サウナの外気浴は「整い」の状態を作るが、その「整い」の質は環境に依存する。何が見えるか、何が聞こえるか、どんな風が来るか。学校の栖の外気浴は、鳥海山と日本海に挟まれた、にかほ市という場所の環境がそのまま体に入ってくる体験だ。
500円という料金の意味
早朝6時から11時の「サービスタイム」は500円。11時以降は600円、土日祝は700円だ。秋田市内の施設と比べても、この料金設定は低い部類に入る。
なぜこの料金が維持できているのか。理由の一つは、地元の生活者向けの施設として作られていることだ。観光客向けのプレミアム価格ではなく、地域の人が毎日来られる場所として設計されている。大竹小学校が地域の子どもたちのものだったように、学校の栖も地域の人たちのものとして機能している。
私が自宅サウナの施工を担当する際、「良いサウナとはどういうものか」を考え続けている。高価な設備を入れることが良いサウナではない。その場所の素性を活かし、入った人が「ここにいたい」と思える空気を作ることが、良いサウナだと思っている。500円のサウナが、その意味での「良いサウナ」であることは、学校の栖が証明している。
金浦港の魚と「学校の食堂」
施設内の食事は、金浦港で水揚げされた地魚を使った料理が出ることがある。にかほ市は漁業の盛んな地域で、ハタハタや岩ガキ、岩ノリなど秋田の海の幸が揃う。サウナで発汗した後に地元の海鮮を食べる体験は、温浴施設と漁港の両方を持つにかほ市ならではだ。
学校の食堂、という感覚がある。給食の香りではなく、地域の食材を使った素朴な食事。過剰な演出がなく、食べることと休むことが自然につながっている。観光地の「映えるレストラン」とは異なる、生活の延長線上にある食事の場だ。
秋田のサウナの「原型」に近い場所
秋田県は温泉地が多い。乳頭温泉郷、玉川温泉、後生掛温泉など、全国に知られる温泉地が点在する。温泉とともに生きてきた文化が根付いている地域だ。
学校の栖のサウナは、その文化の延長線上にある。フィンランド式の「スタイリッシュなサウナ」でも、都市型の「整えるサウナ」でもない。温泉地の、地域の人たちが使う、普段使いのサウナだ。102℃という本格的な温度を持ちながら、500円という料金を維持し、廃校の木造建築の中で蒸気を出し続けている。
私がフィンランドのサウナを視察して学んだことの一つは、「サウナは日常の中にある」ということだった。ヘルシンキの公衆サウナは、地域の人が歩いて来て、サウナに入って、帰る。特別なイベントではない。学校の栖は、その意味でフィンランドの公衆サウナに近い精神を持っている。廃校の校舎の中で、地域の人たちが普通に使う場所として。
盛岡から鳥海山麓まで、3時間半
盛岡から学校の栖まで、東北道→秋田道→国道7号線で約3時間半。距離にして200km強。日帰りできる距離ではあるが、気軽に「ちょっと行ってみるか」と言える距離でもない。
私がにかほ市を訪ねるのは、この施設の存在があるからだけではない。にかほ市という地域には、鳥海山の恵みを受けた温泉と食と景観がある。1日かけて来る価値のある場所だと思っている。
日本海側の国道7号線を走ると、鳥海山が近づいてくる。その麓に入って、廃校の校舎でサウナに入って、地元の魚を食べて、象潟の景色を見て帰る。そういう一日の旅の中心に、学校の栖は置かれている。