一関は、面白い街だ。岩手の南端、宮城との県境に接し、東北自動車道と東北新幹線が交わる交通の要衝でありながら、どこか独特のゆったりとした時間が流れている。厳美渓や猊鼻渓といった名勝に恵まれ、餅食文化が根付き、平泉の世界遺産から車で15分という立地にありながら、この街は観光地然とした派手さとは無縁だ。しっかりと生活の根を張った、地に足のついた岩手の街である。そんな一関に、「古戦場」という名のサウナがある。
名前だけ聞くと、山中の歴史的遺跡か何かを想像するかもしれない。しかし訪れてみると、その予想を良い意味で完全に裏切られる。古戦場は、全国どこを探しても他に類を見ない、唯一無二の空気を持った温浴施設だった。
株式会社古戦場商事、4代目の哲学
まず入口で驚く。大黒様と布袋様が祀られている。中に入ると休憩スペースには「古戦場神社」があり、SDGsを掲げたリサイクル品の叩き売りコーナーがあり、顔ハメパネルがあり、オリジナルグッズが並び、漫画本の棚がある。全てが渾然一体となって、来る人を煙に巻く。これはカオスではなく、確信犯的な「賑わい」だとすぐに気づく。施設全体が4代目オーナーのひとつの表現なのだ。
この施設を運営するのは株式会社古戦場商事、4代目の浅野裕美さん。脱衣所のロッカーには歴史ゲームから切り抜いた武将の顔写真が貼られていて、しれっと浅野裕美さんの顔も混じっている。壁には4代目自らが書いた手書きのメッセージが所狭しと貼られており、サウナの温度に対する信念だったり、ロウリュのマナーへの注意書きだったり、水風呂温度に関する丁寧な反論文だったりする。読み始めると止まらない。
これほどオーナーの個性と哲学が施設全体に染み込んでいる場所は、なかなかない。「温浴施設とはこういうものだ」という既成概念を、良い意味で全部崩してくれる。ここに来ると、サウナがいかに文化であり、人が作るものであるかを実感する。
2つのサウナ室——漢方と溶岩
古戦場の最大の特徴は、男湯・女湯それぞれに2室のサウナ室を持つことだ。「漢方サウナ」と「溶岩サウナ」、性格の異なる2つの熱の世界が用意されている。
漢方サウナ
変則L字型の2段構造で、HARVIA製ストーブには炎をモチーフにした特製の切り板が取り付けられている。室内には薬草の入った巾着袋、アクリルボックスに収められた乾燥ハーブ類、試験管に入った薬草が壁の各所に飾られている。入室した瞬間、ほのかな漢方の香りが鼻をつく。温度は100℃前後。空気がただ熱いのではなく、薬草の揮発成分を含んだ濃厚な蒸気が体を包む感覚があり、普通のサウナとは明らかに違う汗のかき方をする。
セルフロウリュが可能で、柄杓3杯まで。「3杯かけると地獄の熱さ」と貼り紙に書かれているが、これはどうやら本当らしい。薬草の香りが一気に広がり、汗腺が一斉に全開になる瞬間がある。月に4回ほど不定期で、タオルとうちわとブロワーを使った本格的なアウフグースイベントも行われる。
溶岩サウナ
2段のストレートベンチが奥まで続き、最奥にストーブがある。ストーブの上には鳥海山の溶岩石と、フィンランドのトントゥ(小人の守り神)のストーンが乗っている。温度は90〜102℃とその日によって差があるが、溶岩石が放つ遠赤外線的な輻射熱は、単に温度計の数字では測れない種類の深い熱さだ。こちらもセルフロウリュ対応で、アロマ水は季節によってユーカリやハッカなど変わる。砂時計で5分インターバルを測りながらロウリュを重ねると、じわじわと追い込まれていく感覚がある。
2室あることで、セッションごとに「今日は漢方でじっくり薬草を浴びよう」「溶岩の遠赤外線でとことん芯まで温めよう」と切り替えながら楽しめる。1回の訪問で5セット以上こなす人も少なくない。
奥羽山脈の地下水、井戸水かけ流し
水風呂に使われているのは、奥羽山脈から滲み出してくる一ノ関の地下水だ。自家掘削した井戸から汲み上げ、チラーで冷やしながらかけ流しにしている。ライオンの口から地下水がドバドバと流れ落ちてくる造りで、いかにも「この水が飲めそうだ」という清潔感がある。
温度は19℃前後。「ぬるい」という声があったらしく、4代目がその反論をA4用紙数枚にわたって書き記している——それもまた古戦場らしい。実際に浸かってみると、19℃という設定の意味がよくわかる。100℃の熱さで追い込まれた体を、この水は急激に冷やすのではなくじっくりと鎮めていく。北上川水系の花崗岩地帯を通って来た軟水は、肌あたりが柔らかく、長く浸かっていられる。2022年に水風呂が拡張されて広くなり、水深は60〜80cmほど。複数人が同時に入っても余裕がある。
外気浴デッキ——クラウドファンディングで整備された空間
外気浴のスペースは、クラウドファンディングによって整備されたウッドデッキだ。支援者と一緒に作り上げた、という背景があるからか、デッキには独特の温もりがある。コールマンのインフィニティチェアが並び、夏は井戸水シャワーが利用でき、冬にはプールが設置される。東北の厳しい四季に合わせて外気浴の形が変わる——夏の井戸水シャワーを浴びながら風にあたる感覚と、冬のプールに浸かって白い息を吐きながら星空を見上げる感覚は、まるで別の施設のようだ。岩手に通い続ける理由のひとつになる。
一関の風にあたりながら、漢方の余韻が体内に残っている時間。それが古戦場の外気浴だ。
お湯——炭酸水素イオン泉と電気風呂
サウナ以外の湯船も充実している。炭酸水素イオン泉を使った浴槽が段状に並び、最上段からお湯がオーバーフローしながら下へと流れる造りになっている。最上段にはライオンの口から源泉が注がれ、中段に電気風呂、下段に岩盤泉と続く流れは、浴室に入っただけで「ここは手をかけている」とわかる。さらにガッシングシャワー(立ち位置で各部位に水流を当てられる機能シャワー)も設置されており、サウナと水風呂だけでなく、湯の体験としても密度が高い。
食事:カレーと、オロポと
館内には食事処がある。メニューの中で特に評判なのがカレーで、欧風カレーに近いコクのある仕上がりだ。サウナで体を追い込んだ後、ミネラルが抜けた体の中に染み込むカレーの旨さは、理屈ではなく体で理解するものがある。ドリンクは「オロポ」——オロナミンCとポカリスエットを割ったもの——がフロントで注文できる。甘さと塩分と炭酸が一気に補給される感覚は、一度知ると手放せない。
アクセスと基本情報
一関ICから車で数分という立地にある。東北自動車道を使えば仙台からでも2時間かからず、盛岡からも東北道で1時間少々だ。東北新幹線「一ノ関駅」からもそれほど遠くなく、サウナ旅の目的地として成立する。駐車場は広く、地元の常連から遠方の旅行者まで、多種多様な人が混じり合っているのが古戦場の日常風景だ。タトゥーOK、キャッシュレス対応、Wi-Fiや電源もある。長居できる施設だ。
FACILITY DATA
| 施設名 | 古戦場 |
|---|---|
| 所在地 | 岩手県一関市(詳細は公式情報をご確認ください) |
| 漢方サウナ | 約100℃ / HARVIA製ストーブ / セルフロウリュ可(柄杓3杯まで)/ 薬草・漢方香 |
| 溶岩サウナ | 約93〜102℃ / 鳥海山溶岩石 / セルフロウリュ可 / アロマ水 |
| 水風呂 | 約19℃ / 奥羽山脈地下水・井戸水チラー冷却かけ流し / 水深60〜80cm |
| 外気浴 | ウッドデッキ / インフィニティチェア / 夏:井戸水シャワー / 冬:プール |
| 浴槽 | 炭酸水素イオン泉 / 電気風呂 / 岩盤泉 / ガッシングシャワー |
| 入浴料 | 900円〜(最新情報は公式でご確認ください) |
| 設備 | 食事処・漫画・Wi-Fi・電源・作業スペース・駐車場・アカスリ |
| タトゥー | OK |
| 支払い | 現金・クレジットカード・電子マネー |
| アクセス | 東北自動車道 一関ICより数分 |
一関に来るたびに思う。この街には、ここにしかない時間がある。古戦場はその象徴だ。漢方の蒸気、溶岩の輻射熱、奥羽山脈の地下水、ウッドデッキの風、4代目の手書きメッセージ——これら全部が揃って初めて「古戦場」という体験になる。岩手でサウナを語るなら、この場所を避けて通ることはできない。