深浦町という秘境と、桜楽Moanaの誕生
深浦町は青森県の西海岸、日本海に面した小さな町だ。世界遺産・白神山地の北端に位置し、山と海が迫る地形が独特の風景を作り出している。「津軽海峡冬景色」で知られる海のイメージとは異なり、ここの海は穏やかで透明度が高く、夕日の美しさは東北随一とも言われる。青森市から車で約2時間、盛岡から向かうと3時間以上かかる「遠い場所」だが、それを承知で訪れる価値があると感じた。
桜楽Moana(おうらくモアナ)は、深浦の海を一望する丘の上に作られたグランピング&サウナ施設だ。「Moana」はハワイ語で「海」を意味し、施設名の通り日本海がコンセプトの中心にある。グランピングテントとサウナが組み合わさった体験型施設で、近年の自然体験・アウトドアサウナブームの流れで誕生した施設のひとつだ。SNSで紹介されるようになってから県内外から訪れる人が増えていると聞いた。
私が訪れたのは9月初旬の週末。予約制のサウナ利用枠で入場した。受付でスタッフから施設の説明を受け、バスローブとタオルを受け取る。「サウナ後は海を見ながら休んでください」という案内が、これからの体験への期待を高めてくれた。
アウトドアサウナの熱気と、海の開放感
桜楽Moanaのサウナは、木製の小屋型サウナだ。薪ストーブを使用したフィンランド式で、内部は3〜4人が入れるコンパクトなサイズ。壁も床も総木張りで、木の香りが充満している。温度計は80℃前後を示していたが、薪ストーブ由来の柔らかな湿熱は、電気式や瓦斯式とは明らかに異なる体感をもたらす。皮膚に当たる空気がまろやかで、長く入り続けられる種類の熱だ。
小屋のドアを開けると、すぐ目の前に日本海が広がる。この眺望は写真でも伝わるが、実際にサウナ室から一歩出た瞬間の「海の広さ」は体験しないとわからない。9月の午後5時過ぎ、太陽が西の海に傾き始めて、水面がオレンジとゴールドに染まっていた。その景色を汗だくの体で眺めるという体験は、どんな言葉でも十分には表現できない。
薪の扱いはスタッフが管理してくれるため、利用者はただ入るだけでいい。ただし、薪ストーブの特性上、電気式のように一定温度を保つことが難しく、入室するタイミングによって温度に差がある。私が入ったタイミングは薪を追加した直後だったようで、最初の5分は少し熱すぎるほどだった。それもまた、薪サウナの醍醐味だと思う。
海水と冷気による冷却、アウトドアならではの体験
水風呂は屋外に設けられた桶型の浴槽で、海水が使われているとのことだった。水温は外気温や海水温によって変わるが、この日は20℃ほど。純粋な「冷たさ」という意味では施設の水風呂に及ばないが、塩分を含んだ海水の浮力と独特のミネラル感が、体に違う刺激を与えてくれる。海水に浸かるという行為自体が、体のリセットになる感覚があった。
水風呂から上がると、ウッドデッキに置かれたチェアに腰を下ろす。ここが桜楽Moanaの真髄だ。正面には日本海、空には秋の青と夕焼けのグラデーション、潮の香りが混じった海風が汗ばんだ体に当たる。「ととのい」という言葉が持つ意味が、ここでは視覚・聴覚・嗅覚・触覚の全てで体感できる。目を閉じていても、波の音と風だけで十分すぎるほど豊かだ。
隣に座っていた方が「ここに来るために深浦まで来た」とつぶやいていた。その言葉が全てを語っていると思う。サウナそのものの設備的なスペックよりも、この場所、この景色、この時間が、唯一無二の体験を生み出している。
「薪の香り、海風の冷たさ、夕日の橙色。深浦のサウナは、五感が同時に喜ぶ場所だった。こんな体験は、ここにしかない。」
グランピングとサウナの組み合わせが持つ可能性
桜楽Moanaはサウナだけでなく、グランピングテントでの宿泊も提供している。海を見渡すロケーションに設置されたテントには、ベッドや照明、必要な備品が揃っている。サウナを楽しんでからテントに戻り、焚き火を前に夕食を食べ、波の音を聞きながら眠るという体験は、「自然とともにある贅沢」を最大限に楽しむための設計だ。
私が訪れた際はサウナのみの利用だったが、次回はぜひ宿泊込みで体験したいと思った。特に冬の日本海とサウナの組み合わせは、過酷な環境の中でのサウナという意味で、また全く異なる体験になるはずだ。深浦の冬の海は荒々しく、雪が降ることもある。そんな環境の中で薪サウナに入るというのは、想像するだけで体が熱くなってくる。
青森県のサウナシーンは、近年急速に多様化している。温泉施設の併設サウナ、ホテルのサウナ、そして桜楽Moanaのようなアウトドア特化型サウナ。それぞれが異なる価値を提供しており、どれが優れているという話ではなく、目的と気分に応じて選べる選択肢が増えたことを素直に喜びたい。
FACILITY DATA
| 施設名 | 桜楽Moana(おうらくモアナ) |
|---|---|
| 住所 | 青森県西津軽郡深浦町(詳細は公式サイト参照) |
| 利用形態 | 完全予約制(サウナ単体・グランピング宿泊) |
| サウナ種別 | 薪ストーブ式フィンランドサウナ(屋外型) |
| 水風呂 | 屋外桶型(海水使用、約20℃) |
| 外気浴 | ウッドデッキ(日本海ビュー) |
| 駐車場 | あり |
| アクセス | JR五能線 深浦駅より車で約10分 |
| 宿泊 | グランピングテントあり(要予約) |
深浦という場所の遠さが、体験の価値を高める
深浦町へのアクセスは決して便利ではない。青森市からも弘前市からも車で2時間前後かかる。しかしその「遠さ」こそが、桜楽Moanaの体験の価値を高めているとも言える。日常から切り離された場所に来て、非日常の景色の中でサウナに入る——その非日常性が、体験の深さを生み出している。
一方で、毎日の体のリセットという観点からは、やはり自宅サウナの存在意義が際立つ。桜楽Moanaのような特別な体験は年に数回でいい。しかし体の疲れを毎日リセットするためには、自宅にサウナがあることが最も効率的だ。私が施工する自宅サウナも、薪ストーブタイプを希望されるお客様が増えている。「深浦で体験した薪サウナの雰囲気を自宅でも」というご要望も実際にいただいたことがある。
深浦の旅を終えて盛岡へ戻る車の中で、日が完全に落ちた日本海を最後にもう一度振り返った。あの海と夕日の前でのサウナ体験は、しばらく忘れられそうにない。青森の自然は、まだまだ私が知らない顔を見せてくれる。それを探しに、また深浦を訪れようと思っている。