YOMIMONO / 本場は、こうだった。

本場は、こうだった。
ヘルシンキからリトアニアまで、
サウナ紀行。

文・橋本大治(有限会社D'STYLE 代表)|岩手・盛岡の薪ストーブとサウナの店

読了目安:45分

公開日:2026年8月2日 / 最終更新日:2026年9月28日

2026年の1月から2月にかけて、フィンランドとリトアニアを歩いてきた。

目的は観光ではない。サウナと薪ストーブを売る仕事をしている人間として、本場の空気を自分の体で知っておきたかった。カタログの写真や、メーカーの営業トークだけで「本場はこうです」と言い続けるのは、どこかで限界が来る。岩手でサウナを設置して18年。そろそろ自分の目で確かめに行く時期だと思った。

ヘルシンキ、ユヴァスキュラ、そしてリトアニアのビリニュス。2週間ほどの旅で見たもの、触れたもの、匂ったものを、順番に書いていく。

ヘルシンキ — 凍った海に、人が入っていく

ヘルシンキの海沿いにある「ロウリュ(Löyly)」というサウナ施設で、テラスに出たときのことだ。目の前の海が、一面凍っていた。その氷に、四角い穴が切ってあった。手すりのついた金属の階段が、そこへ降りている。見ていると、サウナから出てきた人が、その階段を降りて、氷の海に入っていった。

雪のテラスの先に、凍った海へ下りる階段と水着の人
ヘルシンキの海沿いのサウナで、テラスから見た入水場所。凍った海へ手すりつきの階段とはしごが下りていて、そこだけ氷が開いている。水着の人が、はしごから海へ下りようとしていた。

凍える寒さの中だった。海の表面は白く凍り、岸に近いところは氷が積み上がって壁のようになっている。穴の周りだけ、四角く黒い水面が見えている。

入る人の動作は、驚くほど淡々としていた。階段の手すりをつかんで、一段ずつ降りていく。長く浸かっている人はいない。上がったあとも、慌てた様子はなく、雪の上を歩いてサウナ室に戻っていった。

日本のサウナで見てきた水風呂とは、空気がまるで違った。日本では、水風呂に入る瞬間に体を固くする方が多い。息を止めて、覚悟を決めて、勢いで入る。あの「よし」という感じが、ここにはなかった。

もうひとつ気づいたことがある。誰も長く入っていない。水に浸かっている時間はごく短く、あっという間に上がっていく人がほとんどだった。フィンランドの野外活動を統括する団体(Suomen Latu)の案内にも、「短いひと浸かりから始めて、自分の感覚に応じて時間を延ばす」とある。何分入るという決まりを示すのではなく、感覚に任せる。現地で見た光景と、この案内は同じことを言っていた。

アヴァント — 氷に開けた穴のこと

フィンランド語で、氷に開けた穴のことを avanto(アヴァント)という。そこで泳ぐことを avantouinti(アヴァントウインティ)、日本語でいう氷穴水浴、あるいは寒中水泳にあたる。

この習慣は、フィンランドでは特別な人のものではない。海沿いや湖畔の公共サウナには、たいてい水に降りる階段がついている。冬のあいだ、氷を割って穴を維持する係の人がいる施設もある。設備として、最初から組み込まれている。

ヘルシンキの中心部にも、海に面したプールを持つ施設がある。市場のすぐそばにあり、街のすぐそばで冬の海に入れる場所だった。日本でいえば、駅前の広場に水風呂があるような感覚に近い。

雪の積もった港沿いの屋外プールと対岸の街並み
ヘルシンキの港に面した屋外プール。対岸はすぐ街並みで、雪の日でもプールサイドに人の姿があった。

冷たい水に入ると、体は最初に驚く

冷たい水に急に浸かると、体は「コールドショック反応」と呼ばれる反射を起こす。大きく息を吸い込み、意思とは関係なく呼吸が速く荒くなる。英国ポーツマス大学のTipton氏らがまとめた総説(Experimental Physiology誌、2017年)は、この反応が浸水の最初の数分間に起こり、冷水での溺水事故の大きな要因になっていると報告している。同総説によれば、呼吸の乱れがもっとも大きくなる水温はおよそ15℃から10℃で、そこから5℃まで下げても、反応がさらに強まるわけではないともされている。

冷たい水に飛び込み、そのまま息を止めて顔まで沈めると、体の中で相反する二つの反応が同時に起こる。皮膚が冷えて起こる「興奮させる」反応と、顔が水につかったときに起こる「静める」反応。キングス・カレッジ・ロンドンのShattock氏と、先ほどのTipton氏による報告(The Journal of Physiology誌、2012年)は、この二つが同時に強く働くことで不整脈が起こりうると述べている。フィンランドの案内で「飛び込まない」「頭を濡らさない」と繰り返されるのは、この仕組みを踏まえてのことだと思う。

気分の面についても書いておく。フィンランドで冬泳を続けている人を4か月間にわたって調べた2004年の研究では、冬泳をしていた人たちのほうが、期間の終わりに「活気がある」と自分を評価する傾向が報告されている。ただしこの研究は、冬泳をするかどうかを自分で選んだ人たちを比べたもので、くじ引きで分けた実験ではない。2025年のメタアナリシスでは、冷水浴の直後にむしろ炎症の指標が上がり、気分そのものについては有意な差が確認できなかったとも報告されている。「入ればすぐ気分が晴れる」と言い切れるほど、話は単純ではないというのが、調べてみての実感だ。

現地で印象に残ったのは、水に入る時間を測っている人が一人もいなかったことだ。何分入るという決まりもない。冷たいと感じたら上がる。それだけだった。

雪の積もったテラスと、水平線まで凍った海
海沿いのテラスから見た冬の海。沖のほうまで、一面が雪と氷だった。

岩手の水風呂と外気浴 — アヴァントから持ち帰れるもの

帰りの飛行機で考えていたのは、これを岩手でどう再現するか、ということだった。

結論から言うと、そのまま持ち込むことはできない。岩手の海は凍らないし、川や湖に穴を開けて入るのは、管理された施設のないところでは危険なだけだ。フィンランドで見たものは、階段があり、手すりがあり、人の目があり、上がればすぐ温まれる場所がある、という前提の上に成り立っていた。

ただ、要素を分解すると、岩手には揃っているものがある。ひとつは、冷たい空気。盛岡の冬は氷点下が続く。岩洞湖のあたりでは氷点下三十五度を記録したこともある土地だ。サウナから出て外に立てば、体が急速に冷えていく感覚は、ヘルシンキと同じものが手に入る。

もうひとつは、水温。冬場の水道水は、井戸水でも上水でも、夏よりずっと冷たくなる。岩手の冬であれば、チラー(冷却装置)を使わなくても水風呂として成立する水温になる。逆に問題になるのは夏で、一年を通して同じ冷たさで使いたい場合はチラーの検討が必要になる。

そして三つめが、雪。フィンランドでは、水に入らずに雪に転がる人もいた。雪は水よりも体を奪う速さが穏やかで、面で冷やしてくれる。岩手の庭には、冬のあいだそれが積もっている。

低い太陽に照らされた、雪をかぶったテラスの椅子
フィンランドで見た、雪に覆われたテラス。椅子もテーブルも、雪をかぶったまま外に並んでいた。

冷たい水の注意事項

冷たい水に入るのは、気持ちのいいことであると同時に、リスクのある行為だ。フィンランドでも、注意書きは必ず掲示されていた。お酒を飲んだあとは入らない。ひとりで入らない。頭まで潜らない。長く入らない。心臓や血圧のことで指摘を受けている方は、必ず主治医にご相談を。そして、岩手の川や湖で真似をしないでほしい。フィンランドで見たものは、施設が管理し、人が常にいて、上がる場所が決まっている環境でのことだった。

ユヴァスキュラ — 湖畔の公衆サウナ

ヘルシンキから電車で3時間ほど北へ。ユヴァスキュラという町に着いた。人口14万人。フィンランドでは中規模の都市にあたる。

この町が「サウナの世界都市」と呼ばれていることは、行く前から知っていた。ただ、その意味は現地に立ってみないと分からなかった。人口14万人の町に、サウナが14万台ある。一人一台。家にサウナがあるのが普通で、さらに公衆サウナもある。日本で言えば、家に風呂があるのに銭湯にも行く、という感覚に近い。

凍った湖の岸に建つ公衆サウナと、薄氷注意の黄色い看板
ユヴァスキュラの湖畔にある公衆サウナ。目の前の湖は、一面凍って雪をかぶっていた。

湖畔の公衆サウナに行った日、気温は氷点下18℃だった。盛岡でも冬は氷点下10℃くらいまで下がるが、18℃はさすがに別の寒さだ。鼻の中の水分が凍る。まつ毛が重くなる。

サウナ室を出て、凍った湖に開けた穴に入る。アヴァントと呼ばれる氷上の水風呂だ。岩手にも岩洞湖という、冬に全面結氷する湖がある。あの湖の氷と、ここの湖の氷は、似ているようで違う。岩洞湖の氷はわかさぎ釣りのために開ける。ここの氷はサウナのために開ける。穴の目的が違うだけで、湖の表情がまるで変わって見える。

海の氷と湖の氷も違う。ヘルシンキは海だから、氷に塩分が混じる。水温が同じでも、体への刺激が違う。ユヴァスキュラは淡水の湖だから、肌当たりがやわらかい。水風呂の水質まで気にする日本人の感覚は、ここでは普通のことだった。

加温マットを敷いた木製のスロープが、凍った湖へ降りていく
湖へ降りるスロープ。加温マットが敷いてあり、素足でも滑らない。

印象に残ったのは、湖へ降りていくスロープだ。木製で、加温マットが敷いてある。素足で歩いても滑らない。氷点下18℃の屋外を、裸で、急がずに歩いていく。日本の水風呂は「サウナ室の隣」にあるのが当たり前だが、ここでは50メートルほど離れている。その距離を、走らず、慌てず、歩いていく。

デッキの上を歩く人たちを見ていて気づいた。誰も走っていない。氷点下18℃なのに、急いでいない。サウナで十分に温まった体は、50メートルくらいでは冷えきらない。むしろ、冷たい空気を肌で受けながら歩く時間が、サウナの一部になっている。

もうひとつ、サウナ室の窓の位置。ベンチに座った人の目線に合わせて、窓が切ってある。立った人の目線ではなく、座った人の目線。サウナ室は座って過ごす場所だから、座った高さに景色が来る。当たり前のことだが、日本のサウナ施設でこれをやっているところは少ない。

サウナ室の横長の窓から見える、雪に覆われた凍った湖
ユヴァスキュラで入ったサウナ室。横長の窓いっぱいに、凍った湖が見えていた。

窓から見えるのは、凍った湖と、その上を歩く人影。夕方になると、雪の白さが青みを帯びてくる。その景色を、座ったまま、黙って見る。サウナ室に窓を付けるかどうかは、日本でも議論になる。熱が逃げる、外から見える、コストが上がる。全部正しい。でも、ユヴァスキュラの窓を見たら、「付けない理由」のほうが弱く感じた。

スモークサウナ — ロウリュの真っ暗な部屋

ヘルシンキに戻って、ロウリュ(Löyly)という公共サウナへ行った。海沿いの、建築としても有名な施設だ。ここにスモークサウナがある。

スモークサウナは、煙突がない。薪を燃やして石を焼き、煙が室内に充満する。数時間かけて石が十分に熱くなったら、火を消し、換気して煙を出す。残った石の輻射熱で入る。余熱だけのサウナだ。

中に入った。真っ暗だった。目が慣れるまで、隣に誰がいるか分からない。手探りでベンチを探して座る。壁も天井も煤で真っ黒だから、光を吸い込んでしまう。小さなランプがひとつだけ灯っていたが、足元を照らす程度で、顔は見えない。

座ってしばらくして、目が慣れてきた。隣にぼんやりと人影が見える。もう少し奥に座ろうと思って移動しかけたら、すでに誰かが座っていた。アメリカ人の夫婦だった。あやうく、二人の間に割り込むところだった。暗い中で「Sorry」と言ったら、笑い声が返ってきた。暗いから、笑い声だけが響く。

この暗さには意味がある。サウナ室が暗いと、人は自分の体に意識が向く。誰かの視線を感じない。体の大きさも、年齢も、国籍も、暗闇の中では消える。裸で隣り合っているのに、気まずくない。暗さが、そういう空間を作っている。

もうひとつ驚いたのは、ロウリュの量だ。フィンランド人は石に水をガンガンかける。日本のサウナでロウリュというと、アロマ水を少しかけて、タオルで風を送るイベントのことが多い。フィンランドのロウリュは違う。ひしゃくで何杯も、繰り返しかける。蒸気が天井からどっと降りてくる。湿度が一気に上がって、肌がじりじりと熱くなる。

ドライサウナとウェットサウナ、という分け方を日本ではよくするが、フィンランドのサウナはそのどちらでもない。乾いた空気の中に、自分で蒸気を足す。足す量は自分で決める。その自由さが、フィンランドのサウナの核にある。

リトアニアのサウナも後で書くが、フィンランドとリトアニアでは「上品さ」の感覚が違う。フィンランドのサウナは静かだ。声を出さない。ロウリュをかけるときも、黙ってかける。リトアニアのサウナは、もう少しにぎやかで、ウィスキング(白樺の枝で体を叩く)が盛んだ。どちらが良い悪いではなく、サウナ文化の中にも地域差がある。日本のサウナ文化にも地域差が出てくるだろう。東北のサウナが、関東とは違う形に育っていい。

ハルビア本社 — 路線バスで森の町へ

ユヴァスキュラから路線バスで1時間ほど。ハルビアの本社がある町に向かった。

ハルビアは1950年の創業。76年間、同じ町から動いていない。上場企業だ。フィンランドのサウナヒーターメーカーとしては世界最大で、ヘルシンキに本社を移してもおかしくない規模になっている。それでも動かない。

人口1万人ほどの町だ。森と湖に囲まれている。バスの窓から見える景色は、白樺の林と、凍った湖と、ぽつぽつと建つ家だけだった。こんな場所に、世界中にヒーターを出荷している工場がある。

道路沿いに続く、霧氷をまとった白樺の森
バスの車窓から。白樺の森が延々と続く。

正直に書くと、工場の中は見ていない。アポイントメントを取っていたが、製造ラインの見学は許可が下りなかった。外観と、ショールームと、本社の事務棟を見た。それでも、行った意味はあった。

一番の収穫は、「部品が続く」ということの意味を体で理解できたことだ。D'STYLEはハルビアの岩手県正規代理店をやっている。お客様にハルビアのヒーターを勧めるとき、「部品が長く供給されます」と説明する。76年間同じ町で作り続けている会社が、突然部品の供給を止めるとは考えにくい。それは頭では分かっていた。でも、実際にその町に立ってみると、理屈ではなく、納得できた。

この会社は、ここから動かない。この森の中で、これからも作り続ける。その確信は、カタログを読んでいるだけでは得られない。

D'STYLEでは、ハルビアのヒーターに5年延長保証を付けている。施工の保証は10年。この保証を付けられるのは、メーカーが部品を供給し続けてくれるという信頼があるからだ。ユヴァスキュラの森の中にある本社を見て、その信頼がもう一段、深くなった。

岩手の会社として、励みにもなった。盛岡の人口は29万人。ユヴァスキュラの14万人よりは多いが、東京から見れば「地方の小さな町」だ。ハルビアが1万人の町から世界に出荷しているのを見ると、場所の大きさは関係ないと分かる。いいものを作って、ちゃんと届ける。それだけのことだ。

休憩スペースの設計 — 薪と火と暗さ

サウナの本体だけでなく、休憩スペースの作り方が、日本とはまるで違った。

ヘルシンキのサウナ施設の休憩所。通路の壁に沿って、薪が積んである。飾りではない。実際に使う薪だ。薪の断面が壁のテクスチャーになっている。デッキは半屋外で、雪が吹き込んでくる。屋根はあるが、壁は一部が開いている。冬のヘルシンキで、サウナ上がりの体に冷たい風が当たる。それが気持ちいい。

ルーバー屋根の下、うっすら雪が残るデッキと椅子、壁際の薪
ヘルシンキのサウナ施設の休憩テラス。壁際に薪が積まれ、デッキには雪が吹き込んでいる。

ユヴァスキュラのサウナ施設には、レンガ造りのラウンジがあった。部屋の真ん中に暖炉があり、薪が燃えている。照明は暗い。暖炉の火の明るさが、部屋の主な光源になっている。ソファに座って、火を見ながら、何もしない。テレビも音楽もない。火の音と、ときどき誰かが話す声だけ。

レンガ壁のほの暗いラウンジ。テーブル席と手前に荷物
ユヴァスキュラで見たラウンジ。レンガの壁に小さな照明だけで、室内は暗めに抑えてあった。

日本のサウナ施設の休憩室を思い浮かべてほしい。蛍光灯が明るい。リクライニングチェアが並んでいる。テレビが付いている。自動販売機がある。雑誌が置いてある。それが悪いわけではないが、サウナ室で作った「静かな気分」が、休憩室に出た瞬間に壊れる。

フィンランドの休憩スペースには、3つの共通点があった。暗い。火がある。飲み物は人が入れる。自販機ではなく、カウンターで人が注いでくれる。その3つだけで、空間の質がまるで変わる。

岩手に持ち帰れることが3つあった。ひとつは照明の考え方。サウナの休憩スペースの照明は、暗くていい。明るくする必要がない。ふたつ目は、火の見える場所を作ること。薪ストーブでも暖炉でも、火が見える休憩スペースは、それだけで空間の格が変わる。3つ目は、半屋外という選択肢。岩手の冬は寒いが、フィンランドよりは暖かい。屋根だけかけた半屋外のデッキは、岩手でも十分に成り立つ。

サウナ建築 — ルーバーとガラスと暗さ

ヘルシンキの海沿いに建つ公共サウナ。建築としても世界的に知られている施設だ。

雪の中に建つ、木の板で覆われた角ばったサウナの建物
冬のヘルシンキで見た公共サウナ。斜めの面を組み合わせた建物を、細い木の板が覆っている。

外観は木のルーバーで覆われている。ルーバーとは、細い板を間隔をあけて並べたもの。ブラインドの羽のようなものだ。この板の角度が、場所によって変わる。正面から見ると隙間が見えるが、角度をつけて見ると隙間が消える。歩きながら見ると、建物の表情が変わり続ける。

細い木の板を並べた壁と天井の角を見上げたところ
ルーバーの壁と天井が突き合わさる角を見上げた。どちらも細い板を間隔をあけて並べてある。

屋根が地面から連続してせり上がっていく形で、屋根の上を歩ける。散歩道が、そのまま建物の屋根になっている。建物と地面の境界があいまいで、「建物に入る」という感覚が薄い。気づいたら中にいる、という感じだ。

サウナ室は一面がガラスだった。海が見える。室内は暗い。壁と天井は木で、照明は最小限。暗い室内から明るい外を見る形になるから、中にいる人は外から見えにくい。すだれと同じ原理だ。明るい側から暗い側は見えない。暗い側から明るい側は見える。日本の建築では昔から使われてきた手法が、ここでもそのまま使われていた。

雪のデッキから見た大きなガラス窓。凍った海と水着の人が映り込む
明るい外から見ると、ガラスには凍った海と雪のデッキが映り込み、暗い室内は見えにくい。すだれと同じ原理だ。

窓の位置は、ユヴァスキュラのサウナと同じく、座った人の目線に合わせてあった。サウナ室のベンチは段になっている。上段に座った人と下段に座った人で、目線の高さが違う。窓はその両方の目線をカバーするように、縦に長く取ってある。

照明の当て方も計算されている。サウナ室の中では、ストーブの石が一番明るく見える。石に光が当たっている。壁や天井は暗い。人の目は自然と石に向かう。石に水をかけるとき、蒸気が光の中に立ち上る。それが見える。演出ではなく、照明の配置でそうなっている。

岩手で真似できること。窓の位置をベンチの目線に合わせること。室内を暗くして、外光とのコントラストを作ること。ストーブの石に照明を当てること。この3つは、予算をかけずにできる。

真似できないこと。海沿いの立地。歩ける屋根。木のルーバーの外壁。これは建築の規模と予算の問題で、個人宅のサウナには持ち込めない。ただ、ルーバーの原理は応用できる。目隠しの板を、角度を付けて並べるだけで、光と視線のコントロールができる。塀ではなく、ルーバー。岩手の住宅でも、これは提案できる。

リトアニアのサウナ資材店 — 向こうの日常

フィンランドからリトアニアへ飛んだ。ビリニュスの街中に、サウナ資材の専門店がある。

日本にサウナ資材の専門店はない。ヒーターはメーカーか代理店から取り寄せる。木材は材木屋で買う。煙突部材は煙突メーカーから。石はサウナメーカーの純正品を注文する。それぞれ別の仕入先で、一か所で全部揃う場所がない。

リトアニアの店は違った。サウナに必要なものが、全部ある。

値札の付いたサウナヒーターが並ぶ店の売り場
リトアニアのサウナ資材店。形の違うヒーターが、値札を付けて並んでいる。

ヒーターが家電量販店のように並んでいる。5kW、6kW、8kWと、出力ごとに棚が分かれている。値札が付いていて、手に取って比べられる。日本でサウナヒーターを買おうと思ったら、カタログを見て、見積もりを取って、納期を確認して、という手順になる。ここでは、店で選んで、持って帰れる。

板材が棚に積まれ、奥にヒーターの箱が置かれた店内
サウナ資材店の棚。色や厚みの違う板材が束ごとに並び、奥にはヒーターの箱も置かれていました。

木材が樹種ごとに棚に並んでいる。アルダー、アスペン、サーモウッド。長さと厚みのバリエーションがあって、必要な分だけ買える。サウナに使える木材が「サウナ用」として売られている。日本の材木屋で「サウナに使う板がほしい」と言っても、たいてい困った顔をされる。

煙突部材が棚に並んでいたのも驚いた。二重煙突のストレート管、エルボー、フラッシング。日本では煙突部材は専門の業者から取り寄せるものだが、ここでは店の棚に普通にある。煙突を自分で組む人がいるということだ。

上から見た石なしの円筒形ヒーターと、隣に並ぶサウナストーン
リトアニアの店で見た、石を入れる前の円筒形ヒーター。電熱線と石を受けるかごが見え、横には石を詰めた展示品も並んでいました。

石が消耗品として袋売りされていた。20kgの袋が山積み。日本では、サウナの石は「ヒーターに最初から入っているもの」という認識が多い。割れたり、崩れたりしたら交換するが、定期的に交換するものだという意識は薄い。リトアニアでは、石は消耗品だ。年に一度は入れ替える。袋で買って、自分で入れ替える。

欧州の電圧は230V。日本は100V。ヒーターの出力が同じでも、電流が半分で済む。配線が細くてよく、ブレーカーの容量も小さくて済む。だから、家庭用の電源でも大きなヒーターが使える。日本で同じヒーターを使おうとすると、200V工事が必要になるか、電流容量の問題で使えないこともある。「向こうで売っている=日本でも同じように使える」とは限らない。建築基準も防火規制も違う。そこは正直に伝える必要がある。

持ち帰って変えたこと

旅から戻って、D'STYLEで実際に変えたことが4つある。

ひとつ目。お客様への提案書に「休憩スペースの照明」を項目として加えた。サウナ室の設計だけでなく、休憩する場所の照明計画まで提案する。暗くする。火を見せる。半屋外を選択肢に入れる。以前は「サウナ室の設計」で提案が完結していたが、休憩スペースまで含めて「サウナ体験」だと考えるようになった。

ふたつ目。サウナストーンの定期交換を案内するようにした。リトアニアの資材店で、石が消耗品として売られているのを見て、日本でもそうあるべきだと思った。石は割れる。崩れる。蒸気の出方が変わる。年に一度、点検して、必要なら交換する。その案内を、設置後のお客様に定期的に出すようにした。

3つ目。窓の提案を積極的にするようになった。以前は、お客様から「窓をつけたい」と言われたら対応していたが、こちらから提案することは少なかった。ユヴァスキュラとヘルシンキのサウナ室を見て、窓の位置と大きさで空間の質が変わることを体感した。座った人の目線に合わせた窓。暗い室内と明るい外のコントラスト。これを提案書の中で説明できるようになった。実際に見てきた写真があるから、説得力が違う。

4つ目。ルーバーによる目隠しの提案を始めた。サウナ小屋を庭に建てるとき、隣家からの視線が気になる。従来は板塀を提案していた。フィンランドで見たルーバーの原理を応用して、角度を付けた板を並べる目隠しを選択肢に加えた。板塀よりも風が通り、光も入る。見た目も軽い。岩手の住宅地で、圧迫感なく目隠しができる。

岩手で再現できること・できないこと

フィンランドとリトアニアで見たものを、そのまま岩手に持ってくることはできない。気候も、法律も、文化も違う。ここは正直に線を引いておく。

再現できること。

窓の位置と高さの設計。これは予算の問題ではなく、設計の意識の問題だ。座った人の目線に合わせて窓を切る。それだけのことだが、知っているのと知らないのとでは、提案の内容が変わる。

照明の暗さ。サウナ室も休憩スペースも、暗くていい。むしろ暗いほうがいい。照明器具を減らすのだから、コストも下がる。

ストーブの石への照明。石に光を当てて、壁と天井を暗くする。ロウリュの蒸気が光の中に立ち上る演出は、照明の配置だけでできる。

半屋外の休憩スペース。岩手の冬は氷点下10℃まで下がるが、フィンランドの氷点下18℃よりは暖かい。屋根だけかけた半屋外のデッキは成り立つ。むしろ、雪景色を見ながらの外気浴は、岩手の冬の強みになる。

サウナストーンの定期交換。これは物販と保守の話で、環境の違いとは関係ない。やると決めれば、すぐにできる。

再現できないこと。

湖に穴を開けてのアヴァント。日本の湖は管理者がいて、勝手に穴を開けることはできない。岩洞湖でわかさぎ釣り用の穴は開くが、サウナ用の穴を開ける許可は別の話になる。水風呂は、地上に設置するほうが現実的だ。

230Vの電源環境。日本は100V/200Vだから、欧州向けの大出力ヒーターをそのまま使うことはできない。日本仕様のヒーターか、200V工事を前提にした機種を選ぶ必要がある。

煙突部材や木材のホームセンター感覚の入手。リトアニアの資材店のように「棚から選んで持って帰る」ことは、日本では当面できない。D'STYLEが在庫を持って、お客様に届ける。その手間は、当分こちらが引き受ける。

建築としてのスケール。ヘルシンキの公共サウナのような、歩ける屋根やルーバーの大壁面は、個人宅では無理だ。ただし、ルーバーの原理(角度を付けた板で視線と光を制御する)は、小さなスケールでも応用できる。原理を持ち帰って、スケールを変えて使う。

よくあるご質問

フィンランドのサウナと日本のサウナは何が違いますか?
一番大きな違いは、ロウリュ(蒸気)の自由度です。フィンランドでは入浴者が自分で石に水をかけ、湿度を調整します。日本の多くの施設では、ロウリュはスタッフが行うイベントです。もうひとつは休憩スペースの設計。フィンランドの施設は、暗い照明、火の見える空間、半屋外のデッキなど、サウナ室と同じくらい休憩空間に手をかけています。
スモークサウナとは何ですか?
煙突のないサウナです。室内で薪を燃やして大量の石を焼き、煙が充満した後に換気し、残った石の輻射熱で入ります。室内は煤で真っ黒になるため、照明をつけてもほとんど光を吸い込みます。余熱だけで2〜3時間入れるほどの蓄熱量があります。
ハルビアのヒーターを選ぶ理由は?
76年間、同じ町で作り続けている会社です。部品の供給が長期間続く見込みがあります。D'STYLEでは5年延長保証を付けており、施工保証は10年です。部品が届く限り、修理ができます。
サウナの石はどのくらいで交換が必要ですか?
使用頻度によりますが、年に一度の点検をお勧めしています。石は熱と水で少しずつ割れ、崩れます。崩れた石は隙間を塞ぎ、蒸気の出方や空気の流れが変わります。フィンランドやリトアニアでは消耗品として定期交換するのが一般的です。
サウナ室に窓をつけると熱が逃げませんか?
多少の熱損失はあります。ただし、ペアガラス(二重ガラス)を使えば、損失は限定的です。フィンランドの施設では氷点下の屋外に面した大きな窓を設けていますが、室温は80〜90℃を保っています。窓の位置をベンチに座った人の目線に合わせると、景色を見ながら入れるサウナ室になります。熱効率だけで判断せず、体験の質も含めて考えることをお勧めします。
水風呂は何度がいいですか?
まず15℃前後から試すことをお勧めしています。慣れてきたら下げていく形です。いきなり一桁にする必要はありません。ご家族で使う場合は、いちばん体力のない方に合わせて決めるのが安全です。
チラーは必要ですか?
冬だけ使うなら、岩手の水温であれば必ずしも必要ありません。一年を通して同じ水温で使いたい場合に必要になります。あとから追加することもできますので、まずチラーなしで一冬使ってみて、それから判断される方もいらっしゃいます。
岩手でアヴァント(湖の氷の水風呂)はできますか?
湖に穴を開けるには管理者の許可が必要で、現時点では個人利用は現実的ではありません。地上に水風呂を設置するか、冬場に雪を利用した外気浴をお勧めしています。岩手の冬は外気浴に十分な寒さがあり、フィンランドの人たちがアヴァントで得ている「冷たさ」の体験は、外気浴でもかなり近いところまで再現できます。
フィンランドのサウナ文化を岩手で再現するのに、いくらかかりますか?
サウナ室の窓の設計、照明計画、ルーバーの目隠しなどは、通常の施工費用の中で対応できます。大きく追加費用がかかるのは、半屋外デッキの新設や、薪ストーブ付きの休憩スペースの追加です。まずは現場を見せていただき、何ができるかをご提案します。
欧州のサウナ資材を日本で使えますか?
電圧と建築基準が違うため、すべてがそのまま使えるわけではありません。ヒーターは日本仕様のものか、200V工事を前提にした機種を選びます。木材(アルダー、アスペン、サーモウッド)は日本でも入手可能で、D'STYLEでも取り扱っています。煙突部材は日本の防火規制に適合したものを使います。
D'STYLEの施工エリアは?
岩手・盛岡を拠点に、青森・秋田をはじめ東北全域に対応しています。
見積もりや相談は無料ですか?
相談は無料です。現地調査の上、設計と見積もりをご提案します。TEL 019-681-2477(9:00〜17:00、水曜定休)でお問い合わせください。

終わりに

2週間の旅で見たものは、すべて「当たり前の風景」だった。フィンランド人にとって、サウナは特別なものではない。家にあって、町にあって、湖のそばにある。石を交換し、薪を割り、水をかける。特別なことは何もしていない。日常の中に、ずっとある。

リトアニアの資材店も同じだった。サウナの部品がホームセンターのように売られている。煙突部材が棚に並んでいる。石が袋で積んである。彼らにとっては、蛇口のパッキンを買いに行くのと同じ感覚だ。

日本に帰ってきて思ったのは、この「当たり前」を岩手に作りたい、ということだった。サウナが特別なものではなく、暮らしの中にあるもの。壊れたら直せるもの。石を替えて、薪を足して、水をかけて、また入るもの。

D'STYLEは薪ストーブの会社として始まった。薪ストーブもサウナも、火と石と木でできている。手入れをしながら長く使う道具だ。フィンランドで見た「当たり前」は、薪ストーブの仕事で18年やってきたことと、まったく同じだった。

あなたの冬を、人生で一番好きな季節にしたい。その気持ちは、フィンランドに行く前も後も変わっていない。ただ、「好きな冬」の引き出しが、少し増えた。

参照した研究・情報源(アヴァント・水風呂の章)

  • Tipton MJ, Collier N, Massey H, Corbett J, Harper M. Experimental Physiology. 2017;102(11):1335-1355(コールドショック反応の総説)
  • Shattock MJ, Tipton MJ. The Journal of Physiology. 2012;590(14):3219-3230(冷却と顔面浸水の同時反応による不整脈の報告)
  • Huttunen P, Kokko L, Ylijukuri V. International Journal of Circumpolar Health. 2004;63(2):140-144(冬泳4か月の観察研究)
  • Cain T, Brinsley J, Bennett H, Nelson M, Maher C, Singh B. PLOS ONE. 2025;20(1):e0317615(冷水浴に関するメタアナリシス)
  • Suomen Latu(フィンランド野外活動協会)冬泳の安全案内

本記事のアヴァント・水風呂に関する記述はフィンランドでの見聞と一般的な知見の紹介であり、特定の健康効果を保証したり、病気の予防・治療をうたうものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、必ず主治医にご相談のうえご検討ください。

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橋本 大治(有限会社D'STYLE 代表)

住田町の山主だった祖父から三代、火と生きてきました。英国RODTECH社認定の煙突掃除 安全インストラクター(東北第一号)。盛岡・国道4号線沿いのショールームにいます。

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