フィンランドの人と冬の話をしていると、「カーモス」という言葉がよく出てきます。北の土地で、太陽が地平線の上に出てこない季節のことです。白夜の夏の、ちょうど裏側にあたる時期。今日は、このカーモスがどこで、いつ起きるのか。光の少ない冬を、フィンランドの人がどう過ごしているのか。そして、その暮らしの中でサウナがどんな場所なのかを書いてみます。冬の日差しが少ない秋田や青森、そして岩手で暮らす人にも、身近に感じてもらえる話だと思います。
カーモスという言葉
カーモス(kaamos)は、北極圏、つまりおよそ北緯66度30分の線より北で、太陽が昇らない期間を指すフィンランド語です。日本語では「極夜」と訳されます。もとは北の先住民サーミの言葉で、一年でいちばん暗い時期を表す skábma(スカーブマ)から来たとされています。
面白いのは、この言葉が北の極夜だけの話にとどまらないことです。フィンランド医学会ドゥオデシムの家庭向け医学事典には、冬の疲れや気分の落ち込みを表す言葉として、kaamos のつく言葉がいくつも載っています。極夜の起きないヘルシンキに住む人も、冬の重さを語るときにこの言葉を使う。カーモスは、北の空の現象であると同時に、フィンランドの人みんなが知っている「冬の気分」の名前でもあるようです。
フィンランドのどこで、いつ起きるのか
フィンランド気象研究所によると、カーモスが起きるのはラップランドの北極圏より北の地域です。いちばん長いのは国の最北端にある村ヌオルガムで、11月25日ごろから1月17日ごろまで、二か月近く太陽が昇りません。南へ下がるほど期間は短くなり、北極圏に近いソダンキュラでは、クリスマス前の数日だけになります。
北極圏の線の上にある町ロヴァニエミでは、冬至の日でも太陽が少しだけ顔を出します。計算してみると、日の出は11時すぎ、日の入りは13時半前。昼の長さは2時間あまりです。
首都ヘルシンキは北緯60度。ここには本当の極夜はありません。それでも冬至の昼は6時間に届かず、日の出は9時半前、日の入りは15時すぎです。朝、家を出るときはまだ暗く、仕事を終えて外に出るともう暗い。そんな日が12月のあいだ続きます。
では盛岡はどうか。国立天文台の暦によると、2026年の冬至(12月22日)の盛岡は、日の出が6時53分、日の入りが16時15分。昼の長さは9時間20分ほどです。昼の長さだけを比べれば、北東北の冬はヘルシンキより3時間半ほど長いことになります。
青い昼と、太陽が戻る日
極夜の昼にも、空には光が残ります。太陽が地平線のすぐ下を通るので、昼前後には空がうっすらと明るくなるのです。フィンランド政府の紹介サイトは、この時期の北フィンランドでは青い薄明がよく見られると書いています。雪が月の光を照り返して、夜の森や湖がほの白く浮かぶ日もあります。
長い夜には、空にオーロラが出る日もあります。フィンランド語ではレヴォントゥレット(revontulet)。「狐の火」という意味の言葉です。フィンランド語研究所 Kotus によると、北に棲む火の狐の毛皮や尾が木の幹などに当たって火花が散る、という古い言い伝えから来た名前です。公共放送 Yle は、山を走る狐の尾が茂みや雪をかすめて、火が空へ舞い上がった、という話として紹介しています。いまでは、太陽から届く粒子が大気の中の酸素や窒素にぶつかって光るのだとわかっていますが、呼び名には狐がそのまま残りました。
最北の町ウツヨキで冬至の日を計算してみると、太陽が地平線の下6度より浅いところにいる時間、いわゆる市民薄明が、昼の前後に4時間ほどあります。明かりがなくても外の景色が見える程度の明るさです。真っ暗な夜が二か月続くというより、青い昼と長い夜をくり返す季節、と考えたほうが実際に近いでしょう。
そして1月、太陽が戻ってくる日はちょっとしたニュースになります。フィンランドの公共放送は2022年1月、ウツヨキで54日ぶりに太陽が地平線の上に顔を出す日を伝えました。気象研究所の見込みでは、その日の昼の長さは1時間10分ほど。わずかな時間でも、雪原に久しぶりの日差しが届くのを、北の人たちは楽しみに待っています。
秋田・青森・盛岡の冬の光を、数字で見る
昼の長さとは別に、実際に日が差した時間を測ったものが「日照時間」です。気象庁の平年値(1991〜2020年の30年平均)で、12月の日照時間を並べてみます。
- 秋田 45.3時間
- 青森 50.4時間
- 盛岡 103.7時間
- 東京 174.4時間(くらべるために)
1月はさらに差が開いて、秋田39.0時間、青森48.5時間、盛岡115.6時間です。三つの中でいちばん少ないのは秋田で、12月を一日あたりにならすと1時間半ほど。昼は9時間以上あっても、日差しが地面まで届くのは、そのうちのわずかな時間ということになります。
理由は冬の季節風です。気象庁の解説によると、大陸から吹く冷たく乾いた風が、暖かい日本海を渡るあいだに熱と水蒸気をもらい、雪雲ができます。この雪雲が日本海側の山にぶつかって雪を降らせるため、秋田や青森の冬は日照が少なく、雪の日が多くなります。風は奥羽山脈を越えると乾くので、山の東側にある盛岡は晴れる日が多く、12月の日照は秋田の倍を超えます。
ヘルシンキと比べると、北東北の冬は昼がずっと長い。それでも、厚い雲の下で過ごす日の多さでいえば、秋田や青森の冬にも「光の少ない季節」と呼べるところがあります。緯度も気候もちがう土地ですが、灰色の空を見上げる冬の気持ちは、どこか通じているのかもしれません。
暗い季節を、フィンランドの人はどう過ごすか
先に触れた医学事典には、「カーモスラシトゥス(kaamosrasitus)」という言葉が載っています。冬の眠気や疲れ、甘いものが欲しくなるといった、病気とまではいえない冬の変化のことで、20〜30%ほどの人が経験するとされています。冬にくり返すうつ病は別の名前で区別されていて、こちらは人口の1〜2%です。
同じ事典がすすめているのは、ごく地味なことです。朝のうちに外へ出るか窓辺に座って、日の光を浴びる。食事の時間をそろえる。体を動かす。暗い季節だからこそ、一日のリズムを崩さないようにする、という考え方です。
食べものの面では、フィンランドの食品庁が、日差しの弱い冬はビタミンDが不足しやすいと注意をうながし、牛乳などの乳製品にビタミンDを加えることを提言してきました。冬が暗いことを前提にして、暮らしの側で先に手を打っておく。そんな冬への構え方が、国の仕組みにも見えます。
灯りをともすことも、冬の過ごし方のひとつです。12月6日の独立記念日には、日が暮れると窓辺にろうそくを置く家が多く、Yle によると、この習わしは1920年代から続いています。窓に並ぶのは青と白のろうそくです。クリスマスイブには墓地へ行って、墓にろうそくをともします。ヘルシンキの墓地の管理者は、クリスマスに墓地をたずねる家族は4軒に3軒にのぼると見ています。雪の上に小さな火がいくつも並ぶ、静かな晩です。年が明けると、ヘルシンキの町なかで光のアートの祭り「ルクス・ヘルシンキ」がひらかれます。2026年1月は6日間で、およそ45万人が見に来ました。いちばん暗い時期に、窓辺や町かどへ小さな灯りを置いていく。火を扱う仕事をしている者として、この習わしにはうなずけるところがあります。
なお、この事典には、サウナを冬の不調の治療としてすすめる記述はありません。気分の落ち込みが長く続くときは、まず医師に相談するのがいちばんです。ここから先は、冬の暮らしを少し心地よくするものとしての、サウナの話です。
サウナは、熱とやわらかな光の部屋
フィンランドのサウナ文化は、2020年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。その説明では、サウナは国民の多くにとって暮らしの一部で、体と心を清め、気持ちを落ち着ける場所とされています。暗い冬のあいだも、この習慣は変わらずに続きます。
冬の夕方、外が暗くなったころにストーブへ火を入れる。石が温まるにつれて、小さな部屋に熱がたまっていきます。明かりはベンチの陰や足もとの、低い位置にひとつだけ。石に水をかけると蒸気がふわっと立ちのぼり、その光がにじんで、木の壁がはちみつ色に見えてきます。なぜ良いサウナの照明は控えめなのか、という話はサウナの暗さの記事に書きました。
外は一日じゅう雲の下で、雪が音を吸って静かな日。そんな日でも、サウナの中では肩から背中までじんわり温まります。上がって雪の中で外気浴をすると、火照った肌に冷たい空気が心地よく、吐く息が白く立ちのぼります。暗い季節に、熱と、まぶしすぎない光を同時にくれる部屋。カーモスの国の人がサウナを大事にする理由のひとつは、たぶんこのあたりにあるのだと思います。
寒くて暗い時期に、体を温める決まりごとを持つ。それは日本の冬にもあります。冬至の柚子湯もそのひとつです。暦の上でいちばん昼の短い日を、湯気と香りでやり過ごす。フィンランドのサウナと日本の湯は、形はちがっても、冬との付き合い方がよく似ています。
北東北の冬に、ひと部屋の灯りを
秋田や青森の、雪雲の下で過ごす長い冬。盛岡の、晴れても冷えこむ冬の夜。北東北には、それぞれの土地の冬があります。カーモスの国の人たちのように、冬を「早めに明かりをつけて、温まる季節」と考えてみると、日の短い夕方も少し楽しみになるかもしれません。
D'STYLEは、岩手・青森・秋田で家庭用のサウナをつくっています。家にサウナを置くことに興味がわいたら、自宅サウナのはじめ方もあわせてどうぞ。
※ロヴァニエミ、ヘルシンキ、ウツヨキの日の出・日の入り・薄明の時刻は、2026年12月21日の当社による計算値(目安)です。盛岡の時刻は国立天文台の暦によります。
写真:冬のフィンランド、雪の夜のサウナ施設の入口
出典
- Ilmatieteen laitos(フィンランド気象研究所)「Tähtitieteelliset vuodenajat」
- thisisFINLAND(フィンランド外務省)「When the sun doesn't rise in northern Finland」
- Yle News(2022年1月17日)ウツヨキの極夜明けの記事
- Encyclopaedia Britannica「Arctic Circle」
- Kotus(フィンランド語研究所)「Revontulet」
- Yle(2014年9月30日)「Miten revontulet syntyvät?」
- Jyväskylän kesäyliopisto(ユヴァスキュラ夏期大学)「Kaamos」(語源)
- 国立天文台 暦計算室「日の出入り(岩手県 盛岡)2026年12月」
- 気象庁「秋田 平年値(年・月ごとの値)」
- 気象庁「青森 平年値(年・月ごとの値)」
- 気象庁「盛岡 平年値(年・月ごとの値)」
- 気象庁「東京 平年値(年・月ごとの値)」
- 気象庁「東北地方の冬の天候の特徴」
- Terveyskirjasto(フィンランド医学会ドゥオデシム)「Kaamosmasennus」
- Ruokavirasto(フィンランド食品庁)ビタミンD補給についての案内(2019年12月)
- Ruokavirasto「Food fortification with Vitamin D」
- Yle News(2019年12月6日)「Finland celebrates 102nd Independence Day」
- thisisFINLAND(フィンランド外務省)「Finns celebrate freedom every December」
- thisisFINLAND(フィンランド外務省)「Christmas Eve in a candlelit Finnish cemetery」
- Helsingin kaupunki(ヘルシンキ市)「This year's Lux Helsinki attracted 450,000 visitors」
- UNESCO「Sauna culture in Finland」



