YOMIMONO / 薬とサウナ

薬とサウナ:核心温を有意に上げたのは抗コリン薬とβ遮断薬、
抗うつ薬と利尿薬は差なし

文・有限会社D'STYLE|岩手・盛岡の薪ストーブとサウナの店

公開日:2026年8月20日

「薬を飲んでいる人はサウナに入ってはいけない」。岩手・盛岡でサウナの相談を受けていると、この言い方をよく聞きます。けれど薬にもいろいろあります。2024年に発表された系統的レビューは、35の研究を束ねて、体温を有意に上げた薬と、そうでなかった薬を分けて示しました。今日はその中身を、静かに読んでいきます。

一括りにできない、という出発点

店頭で一番多い質問は「血圧の薬を飲んでいるが、庭にサウナを置いていいか」というものです。今まではその都度「主治医に確認してください」とお答えするだけで、なぜそう言うのかまでは説明できていませんでした。薬の種類ごとに体温への影響を測った研究があるなら、まずそれを知っておきたい。そう思って探した先に、2024年にEClinicalMedicineという医学誌に載った系統的レビューがありました。

35の研究、353人、27種類の薬

Hospers L氏らの研究チームが、熱ストレス下でのヒトの核心温(体の内部、直腸や食道で測る深部の体温のこと)に対して、処方薬や市販薬がどう影響するかを調べた研究を集めました。対象は35の研究、被験者353名、薬剤は27種類にのぼります。気温30℃以上という暑熱環境での実験データを統合し、メタ解析(複数の研究結果を数値として一つに束ねる統計手法)にかけています。ここで注意しておきたいのは、被験者353名のうち女性はわずか16名、4.5%だったという点です。この研究が語れるのは、主に男性の体で何が起きたかということにとどまります。

有意に核心温を上げた薬

結果として、核心温を統計的に有意に上げたと報告されたのは次の4種類でした。まず、強い抗コリン薬(主にアトロピンという、発汗を抑える働きを持つ薬)で、核心温は平均で0.42℃上昇しました(95%信頼区間0.04〜0.79℃、これは真の値がこの幅のどこかにある可能性が高いという推定の範囲です。エビデンスの質は中等度と評価されています)。発汗が抑えられれば、体は熱を逃がしにくくなります。次に非選択性β遮断薬で、+0.11℃(95%信頼区間0.02〜0.19℃、統計学的に意味のある差とされるP=0.02)。アドレナリンでは+0.41℃(95%信頼区間0.21〜0.61℃)。抗パーキンソン病薬では+0.13℃(95%信頼区間0.07〜0.19℃、P=0.02)でした。数字だけ見ると小さく思えるかもしれませんが、これはあくまで実験条件下での平均値であり、個人差や環境条件によって変わりうるものです。

有意な差がなかった薬

一方で、抗うつ薬、利尿薬、そして弱い抗コリン作用しか持たない薬剤については、核心温に統計的に有意な変化は見られなかったと報告されています。都合の良い結果だけを取り出すと誤解を招くので、ここは並べて書いておきます。「薬を飲んでいる」というだけでは、体温への影響の有無も大きさも決まらない、ということがこの整理から見えてきます。

この研究が言えないこと

この研究は観察研究の統合であり、原因と結果を証明するものではありません。また被験者の95.5%が男性という偏りがあるため、女性における影響は十分にわかっていません。さらに見落とせないのが年齢の偏りです。原著論文によれば被験者の平均年齢は30歳未満で、対象の中心は健常な若年層であり、臨床的な集団(持病のある方や高齢の方)を含む研究はわずか1件にとどまります。つまりこの研究は、血圧の薬を服用する中高年の方の体で何が起きるかについては、ほとんど答えを持っていないということです。フィンランドの実験室での短時間の暑熱曝露データが中心であり、日本の高温多湿な夏や、実際の自宅サウナでの使い方にそのまま当てはまるとは限りません。若く健康な男性を中心とした実験室のデータを、加齢や持病、複数の薬を併用している状態にそのまま重ねることはできません。そして何より、この記事にあてはめて「自分の薬は大丈夫」と判断することはできません。どの薬がどの分類に入るか、どの程度の量をどのくらいの期間服用しているかによって話は変わります。持病がある方、薬を服用中の方は、サウナの利用について必ず主治医・薬剤師にご相談ください。

岩手の冬、血圧の薬という現実

岩手は冬の寒暖差が大きく、血圧の管理で服薬している方が少なくありません。D'STYLEの店頭でも「血圧の薬を飲んでいるが自宅サウナを置いていいか」という質問が、体感としてもっとも多く寄せられます。以前公開した読みもの『薬を飲んでいる人のサウナ』では、まず主治医に聞いてくださいと言い切りました。この記事はその深掘りという位置づけです。なぜ売る側が一律に「危険です」とも「大丈夫です」とも書けないのか。今回のメタ解析を読むと、その理由がはっきりします。薬の種類によって影響の有無が分かれているうえ、研究の対象となった人たちの多くが、実際に相談に来られる年齢層とは違うからです。

薬局に持っていける質問メモ

実際に相談を受ける中で、私たちがお客様にお勧めしているのが、質問をメモにして薬局に持っていく方法です。サウナ室の温度は何度くらいか、1回の入浴時間はどのくらいか、週に何回くらい入る予定か、水風呂や外気浴は使うか。この4点を書いて渡していただくと、薬剤師の方が答えやすいという声をいただいています。抽象的に「サウナは大丈夫ですか」と聞くより、具体的な数字を持っていく方が、的確な返答をもらいやすいのだと思います。

薬とサウナの関係は、「危険」か「安全」かの二択では語れません。今回の系統的レビューが示したのは、薬の種類によって核心温への影響が分かれるという、地味だけれど大事な事実でした。抗コリン薬やβ遮断薬では有意な上昇が報告された一方、抗うつ薬や利尿薬では差が見られませんでした。ただしこれは実験室での限られた条件下の話であり、対象者の多くが男性で、しかも平均年齢30歳未満の若く健康な人たちだったという偏りもあります。血圧の薬を服用している中高年の方の実態を、このデータだけで代弁することはできません。ご自身の薬がどちらに近いのか、どのくらいの温度・時間なら無理がないのかは、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。岩手・盛岡でサウナの導入をお考えの方は、D'STYLEの店頭でも温度設定や入浴時間についてご相談いただけます。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。

参照した研究

  • Hospers L, Dillon GA, McLachlan AJ, et al. "Effects of prescription and over-the-counter medications on human core temperature during heat stress: a systematic review and meta-analysis." EClinicalMedicine 2024;77:102886.

この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。

D'STYLE
橋本 大治(有限会社D'STYLE 代表)

住田町の山主だった祖父から三代、火と生きてきました。英国RODTECH社認定の煙突掃除 安全インストラクター(東北第一号)。盛岡・国道4号線沿いのショールームにいます。

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