Yleinen Sauna — Public Sauna

公衆サウナ(yleinen sauna)。
コテージを持てない人たちのために、街に残ったサウナ。

2026年10月  |  D'STYLE 橋本大治

フィンランド人の多くはコテージ(mökki)にサウナを持っています。しかし都市部で暮らし、コテージを所有していない人は?そういった人々のために都市に公衆サウナ「yleinen sauna(ユレイネン・サウナ)」が存在しました。日本の銭湯に相当する施設です。

yleinen saunaの歴史:19〜20世紀の都市化とサウナ

フィンランドの都市化が進んだ19世紀後半から20世紀初頭、ヘルシンキ、タンペレ、トゥルクなどの都市に多数の公衆サウナが誕生しました。農村から都市へ移住した労働者たちが自宅にサウナを持てない環境で、公衆サウナは衛生維持と社会的交流の場として機能しました。1930〜40年代のヘルシンキには300以上の公衆サウナがあったとされています。

公衆サウナは通常、男湯・女湯に分かれており(一部は混浴)、入浴料は安価でした。日本の銭湯と異なる点は、浴槽がなく純粋にサウナ(蒸し風呂)と流し場(pesuhuone)のみであること。「洗う」と「サウナで温まる」は明確に分離されており、サウナが主体でした。

衰退:1960〜80年代の「プライベートサウナ化」

公衆サウナの数は1960年代から急速に減少しました。経済成長により集合住宅(kerrostalo)が普及し、各棟に共用サウナが設置されるようになりました。また一戸建ての新築でも自宅サウナが標準装備になっていきました。公衆サウナの必要性が薄れ、1980年代には多くが閉店しました。

こうしてフィンランドのサウナはプライベート化しました。「自分の家のサウナ」または「コテージのサウナ」が理想とされ、他人と共有する公衆サウナは時代遅れのイメージを持つようになりました。これはサウナの利便性向上の一方で、サウナが「共同体の場」から「個人/家族の場」へシフトすることを意味しました。

復活:2010年代の「パブリックサウナ・ルネサンス」

ところが2010年代に入り、フィンランドの都市部でパブリックサウナの復活が起きています。これはいくつかの要因によります。

第一に、若い世代がアパート暮らしで自宅サウナを持てず、かつコテージを持つ経済的余裕もない、という状況が増えたこと。第二に、「みんなでサウナに行く」という社会的体験への再評価。Instagram世代にとって、美しいデザインのパブリックサウナでの体験は「シェアしたいもの」になりました。第三に、観光資源としての価値の再発見。ヘルシンキを訪れる外国人観光客が「フィンランドのサウナ体験」を求めており、質の高いパブリックサウナへの需要が生まれました。

ヘルシンキの注目パブリックサウナ

現代のヘルシンキには、世界的に注目される高品質なパブリックサウナがいくつかあります。2016年にオープンした「ロウリュ(Löyly)」はヘルシンキの海岸沿いに建つ、フィンランド建築家設計の建物で、サウナと海水浴・レストランが融合した施設です。年間来場者数は数十万人を超え、ヘルシンキ観光の新名所となっています。「コトハルユ(Kotiharju)」は1928年創業の歴史的な薪火公衆サウナで、ヘルシンキで現存する最古の公衆サウナの一つ。柴火(koivu)で加熱する本格的なサウナ体験が今も続いています。「Allas Sea Pool」は港に浮かぶプール施設内のサウナで、ヘルシンキの海と街並みを眺めながら入れる現代的なサウナです。

パブリックサウナが持つ意味:民主的な場としてのサウナ

パブリックサウナの復活は、サウナが「誰でもアクセスできる民主的な場」であるという価値観の再確認でもあります。自宅にサウナを持てない若者も、コテージを持つ裕福な人も、外国人観光客も、同じ空間で汗をかく。フィンランドサウナ協会(Suomen Saunaseura)は、「サウナはすべてのフィンランド人の共有財産」と表現しており、その精神はパブリックサウナという形で都市に生き続けています。

岩手の温泉文化——農村の共同浴場、旅館の立ち寄り湯——にも似た「みんなの場所としての湯」という発想があります。サウナも温泉も、「境界を越えた共有の場」としての機能を持つとき、その社会的価値は純粋な健康効果を超えた何かを持ちます。

参照・参考文献

  • Peltonen M (2003). Saunakulttuurin historiaa. Finnish Literature Society
  • Visit Helsinki (2023). "Public saunas in Helsinki — a guide." visithelsinki.fi
  • Finnish Sauna Society (Suomen Saunaseura): Annual report 2022
  • Löyly Helsinki: About us. loylyhelsinki.fi (2024)

この記事は文化・観光の紹介を目的としています。施設情報は変動することがあります。

D'STYLE
橋本 大治(有限会社D'STYLE 代表)

住田町の山主だった祖父から三代、火と生きてきました。英国RODTECH社認定の煙突掃除 安全インストラクター(東北第一号)。盛岡・国道4号線沿いのショールームにいます。

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