フィンランドの夏、湖のほとりのサウナ小屋。夕方になると煙突から薪の煙が上がり、となりのグリルでは誰かがソーセージを焼きはじめます。汗を流して外へ出ると、板の上には黒いライ麦パンと、いぶした魚。今日は、フィンランドの人がサウナのまわりで何を食べ、何を飲むのか。そして、その味が岩手・青森・秋田の燻しや保存の食べものと、どこでつながるのかを書きます。
サウナのごはんは、外で気楽に
フィンランドの観光局(Visit Finland)によると、フィンランドの人はふつう、サウナの中では食べません。それでも食べものはサウナの時間に欠かせないもので、好まれるのは手間がかからず、気取らない料理だそうです。夏には湖や川のそばでサウナを焚き、同じ時間にグリルにも火を入れる。そんな過ごし方がよくあります。
ユネスコの資料では、人口およそ550万人の国に、サウナがおよそ330万あるとされています。夏を過ごす小屋(モッキ)も、全国で50万棟ほどあると報じられています。週末に家族で小屋へ行き、サウナを焚いて、外で食べる。フィンランドのサウナの食卓は、だいたいこの景色の中にあります(モッキの話)。
サウナマッカラ、焼けた石の上のソーセージ
サウナのそばでいちばん好まれる食べものは、ソーセージです。フィンランド語でマッカラ(makkara)、サウナで食べるものはサウナマッカラと呼ばれます。Visit Finlandは、厚手のアルミホイルで包み、サウナストーブの熱い石の上で焼く人もいて、これもフィンランドらしい習わしだと紹介しています。
中身はシンプルなものや、チーズ入りのものが多く、フィンランドのマスタードをつけて食べるそうです。ホイルを開くと、湯気と一緒に脂の香りが立ちのぼる。皮がぴんと張って、かじるとぷつりと切れる。汗をかいたあとの体には、この塩気と脂がよく合います。サウナ用に、石の上に置ける石けん石(ソープストーン)のソーセージ台まで売られているそうです。
マスタードでよく名前の出るのが、トゥルン・シナッピ(Turun sinappi)です。1948年にトゥルクの食品会社が売り出したもので、ソーセージに添えることが多いそうです。ふたの色で辛さが分かれていて、いちばん売れているのは赤いふたの強めのものだといいます。
ソーセージがぐんと動くのは、夏至祭(ユハンヌス)の週です。Yleの報道では、この週に工場から出るソーセージは、ふだんの週の3倍ほどになるそうです。夜も明るい夏至の週末に、湖のほとりでサウナを焚いて、外で焼く。そういう週末です(ユハンヌスの話)。
石の上で焼く前に、知っておきたいこと
ここは大事なところです。石の上でソーセージを焼く習わしはありますが、安全の面から勧めない声もはっきりあります。フィンランドの損害保険会社は、火事を防ぐためにストーブの上での調理は勧めないとしています。脂や汁をストーブに垂らさないこと。ソーセージを石にじかに置いたり、プラスチックの包装のまま焼いたりしないこと。ホイルも破れると脂がもれるので、気をつけるように、とのことです。どうしても焼くなら、冷えているうちに石を組み直して耐熱の器をしっかり置くか、ストーブの上に鍋を安全に吊るす方法を挙げています。
電気ヒーターについては、フィンランドの安全庁(Tukes)が、ヒーターの上やまわりに余計なものを置かないよう呼びかけています。ヒーターが原因の火事や危ない場面の半分以上は、ものを置かなければ防げた、という説明です。電気ヒーターの石には、取扱説明書で認められていないものは載せない。薪ストーブでも、説明書をまず確かめる。迷ったら、ソーセージは外のグリルや焚き火で焼くのがいちばん気楽です。煙の香りもつきます。
ライ麦パンの、酸っぱい香り
ソーセージのとなりに置かれるのが、ライ麦パン(ルイスレイパ)です。黒っぽくてずっしり重く、かむとほんのり酸っぱい。2017年の独立100年に合わせて「国の食べもの」を選ぶ投票がおこなわれ、4万人近くが参加して、ライ麦パンが大差で選ばれました。
酸味のもとは、生きたパン種です。焼くたびに生地を少し残して、次のパンの種にする。この「根っこ」が百年以上続いている家もあるそうです。焼きたてに塩気のあるバターをのせたり、塩漬けの鮭をのせたり。サウナのあとの、かりっとした皮と酸っぱい香りは、ソーセージの脂を軽くしてくれます。
昔のライ麦パンには、まん中に穴のあいた薄い円盤形のもの(ルイスレイカレイパ、ruisreikäleipä)がありました。穴は、竿を通して吊るすためのものです。フィンランド国立博物館によると、長いときは一週間がかりでまとめて焼いた薄いパンを、天井近くの竿に吊るして乾かし、そのあと箱に移してしまっておきました。しまっている間に、パンはさらに乾いて硬くなったそうです。屋外博物館に残る古い家でも、パンは部屋の天井近くの竿に通して乾かしていました。
19世紀のフィンランドでは、硬いライ麦パンは西の地方のもので、いちばん薄くて硬いパンは南西部のヴァルシナイス=スオミで焼かれていたそうです。歯の弱い人のためには、硬いパンを薄く削る、刃のついたパン用のかんなまで使いました。ふつうの大工のかんなで代わりにすることも多かったといいます。木を削るかんなで、パンも削る。手もとの道具を使い回す、暮らしの知恵です。
湖の魚を、煙でいぶす
もう一つの定番が、いぶした魚です。フィンランドのニュースでは、燻製は夏の昔ながらの魚の食べ方の一つとして紹介されています。フィンランドの魚の団体の助言では、いぶす前に海塩をふるか、塩水に30分ほどつけて塩をまわす。ニジマスやムイック(小さな淡水魚)、シーカ(白身の淡水魚)のように脂のある魚のほうが、しっとり仕上がりやすいそうです。
道具は、電気の燻製器がいちばん手軽で、小屋に無ければ燻製箱や燻製袋でもできるとのこと。燻製の店では、ハンノキやブナのチップを使うところもあります。夏は、魚を買ってから小屋に着くまで冷たく保つことも大切だと書かれていました。皮をはがすと、身から薄い煙の香り。ライ麦パンにのせれば、それだけで一皿になります。
飲みものは、まず水から
Visit Finlandは、サウナにいちばん合う飲みものは水で、水分をとることが欠かせないとしています。サウナの合間や終わりに飲む一杯は「サウナユオマ」と呼ばれ、ジュースや炭酸水など、好きなものを選んでいいそうです。冷たい水をゆっくり飲んで、外の風にあたる。それからジュースやミネラルウォーターを少し。飲む量やタイミングは、水分補給の話にまとめています。
お酒は、サウナを終えてから
フィンランドには、サウナのあとのビールや、ロンケロ(lonkero)と呼ばれるロングドリンクもあります。文化としては、よく知られた組み合わせです。
ロンケロのはじまりは、1952年のヘルシンキ五輪です。フィンランドの酒類販売会社アルコ(Alko)によると、五輪に来る大勢の客をさばく店の人の手間を減らそうと考えられた飲みもので、ジンとブランデーの2種類が出ました。つくったのは飲料会社のハートウォール(Hartwall)です。いまロンケロといえば、ジンをグレープフルーツで割った炭酸のほうを指します。
春のメーデー(ヴァップ)には、シマ(sima)という泡の立つ飲みものを仕込みます。レモンと砂糖、イースト、干しぶどうでつくる、昔からの飲みものです。ソーセージにシマを合わせる人もいるそうです。ただ、イーストで発酵させるので、家でつくるシマにはいくらかアルコールが入ります。Yleは、店で売られるシマにもアルコールを含むものが多いと伝えています。シマもお酒と同じに考えてください。
お酒とサウナの熱は、相性がよくありません。フィンランドの統計局は、サウナの熱で亡くなる人がここ数十年、毎年30〜40人ほどいて、その8割は亡くなったとき酒に酔っていたと報告しています。Visit Finlandも、お酒と熱はうまく混ざらないと書き、飲み続けたいなら服を着てサウナを離れてから、と勧めています。
わたしたちの考えも同じです。飲んでから入らない。飲むなら、サウナを全部終えて、水を飲み、体が落ち着いてから。くわしくはサウナとお酒の話をどうぞ。
煙の味は、秋田にもある
フィンランドには、煙突のないサウナもあります。スモークサウナ(サヴサウナ)です。何時間も薪を焚いて部屋を煙で満たし、そのあと煙を抜いてから入ります。すすで黒くなった壁と、やわらかな煙の香り(スモークサウナの話)。フィンランドの暮らしでは、煙はずっと身近なものでした。
スモークサウナは、肉をいぶす場所でもありました。サウナパルヴィ(saunapalvi)と呼ばれる燻製です。いまもスモークサウナでハンノキの煙をじかに当てて、ハムがつくられています。昔ながらのつくり方を守る人たちの会が、このハムの名前を守るための申請もしています。サウナで食べものに熱と煙を通すのは、フィンランドでは古くからの暮らしの知恵でした。
秋田にも、煙の味があります。いぶりがっこです。農林水産省によると、はじまりは秋田の内陸南部。日が短く雪の早い土地で、大根を外で干せず、いろりの熱と煙で乾かしたのが起こりとされ、室町時代からともいわれます。いまは白首大根を編んで小屋に吊るし、ナラやサクラの薪で4〜5日いぶしてから、米ぬかや塩で漬けて、冬の寒さの中で2か月以上ねかせます。横手市の山内地区では、11月から12月にかけて、あちこちの小屋から煙が上がるそうです。2019年には国の地理的表示(GI)にも登録されました。
雪で外が使えないなら、火と煙で乾かす。フィンランドの燻製魚と秋田のいぶりがっこは、寒い土地の知恵としてよく似ています。農林水産省のページでは、刻んでクリームチーズと和える食べ方も紹介されています。ライ麦パンにクリームチーズといぶりがっこをのせる。北東北のサウナのあとに、ためしてみたい一枚です。
寒さがつくる、岩手と青森の味
岩手には、寒さで仕上げる保存食があります。凍み大根です。寒の時期に皮をむいた大根を縦に割り、軒下に吊るして、1か月以上寒い風にさらします。奥羽や北上の山あいでは、この凍み大根や干した山菜を煮しめに使い、沿岸では干した魚を入れることもあるそうです。天井近くに吊るしたフィンランドのライ麦パンと、軒下の凍み大根。どちらも、冬を越すために吊るして乾かした食べものです。
青森といえば、りんごです。農林水産省の統計では、令和7年産のりんごの収穫量は全国で57万7,400トン、そのうち青森県が35万1,400トンで、全体の61%を占めています。サウナのあと、まず水を飲んで落ち着いたら、冷えたりんごを一切れ。しゃりっとした歯ざわりが、外気浴の静かな時間によく合います。サウナ後のごはん全体のことは、サウナ後の食事の話に書きました。
北東北の庭で、フィンランドの食卓を
サウナを焚いて汗を流し、外のグリルでソーセージを焼く。ライ麦パンにいぶした魚や、いぶりがっこをのせる。飲みものは水から。お酒は、サウナを全部終えてから。フィンランドの夏の食卓は、北東北の庭でも、雪の季節でもつくれます。煙の香りと、冬を越すための保存の味は、もともとこの土地にもあるものです。
D'STYLEは、岩手・青森・秋田で、家のサウナづくりをお手伝いしています。庭にサウナがある暮らしのことは、自宅サウナのはじめ方もどうぞ。
出典
- Visit Finland「Food and drinks in Finnish sauna culture」
- UNESCO 無形文化遺産「Sauna culture in Finland」(2020年登録)
- Yle(フィンランド公共放送):夏の小屋の数についての報道
- Atlas Obscura「Sauna Sausage」
- Wikipedia「Turun sinappi」(英語)
- Yle(フィンランド公共放送)「Suomalaisten makkarannälkä vaatii lisävuoroja juhannuksen alla」:夏至祭の週のソーセージの出荷(フィンランド語)
- Verkkouutiset:サウナストーブでソーセージを焼くことについての損害保険会社の注意(フィンランド語)
- Verkkouutiset:Tukes(フィンランド安全化学物質庁)によるサウナヒーターの火災予防の呼びかけ(フィンランド語)
- Verkkouutiset:スモークサウナでつくるサウナパルヴィのハムの名前を守る申請(フィンランド語)
- thisisFINLAND(フィンランド外務省)「Rye bread reigns as the Finnish food」
- フィンランド国立博物館「Leipähöylä Kiikasta」:穴あきライ麦パンの乾かし方とパン用のかんな(フィンランド語)
- フィンランド国立博物館 セウラサーリ野外博物館「Museorakennukset」(フィンランド語)
- Wikipedia「Ruisreikäleipä」(英語)
- MTV Uutiset:夏の魚料理と燻製のこつ(フィンランド語)
- MTV Uutiset:魚の団体の助言による燻製の塩のふり方と魚の選び方(フィンランド語)
- Suomen Yrittäjät:燻製魚の店の紹介(フィンランド語)
- Alko「Lonkero」:ロンケロのはじまり(フィンランド語)
- Hartwall「Hartwallin aito lonkero täyttää 70 vuotta」(フィンランド語)
- Ruokatieto「Kevään ruokajuhlat」:ヴァップとシマ(フィンランド語)
- Wikipedia(フィンランド語版)「Sima」
- Yle(フィンランド公共放送)「Useat kaupan simat ovat alkoholipitoisia」(フィンランド語)
- フィンランド統計局「Sauna ja pakkanen ovat vaarallisia päihtyneille」(2011年)
- Visit Finland:スモークサウナの紹介ページ
- 農林水産省「うちの郷土料理」いぶりがっこ(秋田県)
- 農林水産省 地理的表示(GI)登録 第79号 いぶりがっこ
- 農林水産省「うちの郷土料理」煮しめ(岩手県)
- 農林水産省「令和7年産りんごの結果樹面積、収穫量及び出荷量」(PDF)
写真: 雪のサウナ小屋と、煙突から上がる煙



