サウナは朝に入るべきか、夜に入るべきか。お客さまからよく受ける質問です。正直、「どちらが正解か」という聞き方だと、うまく答えられません。朝の体と夜の体は、けっこう別ものだからです。同じサウナ、同じ温度でも、体の中で起きることが変わってきます。
朝は目覚まし、夜は眠り薬。そして休日の午後には、「ととのい昼寝」という小さな発明がある。今日は、サウナと睡眠にまつわる話を、時間帯ごとにぜんぶまとめます。
サウナと睡眠の関係:深部体温の落差で入眠する
眠りのスイッチは、じつは体温です。人は眠りに落ちるとき、体の内側の温度(深部体温)を、ゆっくり下げていきます。手足の先から熱を逃がし、脳の温度が下がっていく。その下り坂そのものが、体にとっては「そろそろ眠る時間だ」の合図になります。
ここで、サウナの出番です。夜、いったん体をぐっと温めておく。すると出たあと、体は上がった分を取り返そうと、いつもより大きく深部体温を下げていきます。この落差が深いほど下り坂は急になり、眠りの合図もはっきり脳に届く。就寝の1〜2時間前に体を温めておくと、寝つくまでの時間(入眠潜時)が有意に短くなった、という報告もあります。ただし、ここで引きあいに出した解析(Haghayeghら, Sleep Medicine Reviews 2019)が集めたのは40〜42.5℃の湯を使った入浴やシャワーの研究であって、サウナ室そのものを調べたものではありません。分数までは保証できない。それでも、いったん温めて、下がる坂道を借りるという考え方そのものは、サウナにも通じています。
夜のサウナは、眠りの長さだけでなく、質そのものにも効いてきます。とりわけ、脳と体をいちばん深く休ませる徐波睡眠(深い眠り)が増えると考えられています。夜のはじめにこの深い眠りをしっかりとれると、翌朝の目覚めの軽さがまるで違います。年を重ねて、明け方にふと目が覚めてしまう早朝覚醒にも、就寝前の加温は助けになります。体温が下がりきるまでの時間がのびて、朝までひとつづきの眠りが戻ってきやすい。ただし、高齢の方や持病のある方は、無理のない温度と短めの時間から始めてください。
夜サウナの最適タイミング:寝る1〜2時間前
効かせられるかどうかは、入る時間帯で決まります。いちばん眠りを深くするのは、就寝の1〜2時間前。
早すぎると、寝床に入るころには体温が下がりきってしまい、肝心の落差が消えています。3時間以上も前だと、坂道はとっくに下り終わっている。逆に、出た直後に横になると、体はまだ火照ったまま。心臓も呼吸も、静けさにはほど遠い。温まった体がゆっくり冷めていく、その下り坂のいちばんいいところで布団にもぐり込む。1〜2時間前という間合いには、ちゃんと理由があるんです。
夜の型は、こうです。就寝の1〜2時間前に、ゆっくり、急がずに入る。寝る直前の強い冷却は避けてください。交感神経が立ち上がって、かえって目が冴えます。照明は柔らかく落とす。スマホをサウナ室に持ち込まないこと。一日で唯一、通知の届かない時間になります。これも、夜サウナのちゃんとした効能だと思っています。
朝サウナと夜サウナの違い:朝は覚醒、夜は睡眠
朝の体は、コルチゾールというホルモンが一日でいちばん高い状態にあります。体が「これから活動する」と宣言している時間です。そこに熱を加えると、覚醒に拍車がかかります。血管が開いて血行が上がり、代謝のスイッチが入る。エンドルフィンも出て、気分まで上向きます。サウナから出たあとの頭の冴えは、コーヒーとはまた別種のものです。
朝には朝の型があります。短く、5〜10分。温度は控えめの中温。仕上げは冷たいシャワーでキリッと締める。あとは水分補給を忘れないこと。寝ている間に、体は想像以上の水分を失っています。朝のサウナは目覚めのための儀式であって、修行ではないので。
朝サウナが特に効くのは、自宅で仕事をする人だと思います。通勤という切り替えの儀式がない分、熱と冷で強制的に仕事モードへ入れる。もうひとつは、岩手の冬。夜明けが遅くて日照の短い季節は、朝の光だけではなかなか体が起きません。その代わりを、熱がやってくれます。
| 朝サウナ | 夜サウナ | |
|---|---|---|
| 目的 | 活力・覚醒 | 回復・入眠 |
| 時間 | 5〜10分と短め | ゆっくり、急がず |
| 温度 | 控えめの中温 | 無理のない温度 |
| 締め方 | 冷シャワーで覚醒 | 強い冷却は避ける |
| 向く場面 | 仕事前・運動前 | 一日の締めくくり |
ととのい昼寝という発明:20〜30分の作法
休日の午後、サウナから上がって、畳にごろりと横になる。窓から冬の日が差して、体はまだ、ほかほかと湯気を上げている。そのまま、すうっと落ちる二十分の眠り。目が覚めると、体が軽くて、頭が澄んでいて、休日がもう一回始まったような気分になる。サウナ好きが「ととのい昼寝」と呼ぶ、この時間は、休日の午後をまるごと変える小さな発明品です。
理屈は夜と同じ。サウナで深部までしっかり温まった体は、そのあと、ゆっくりと長い下がり坂に入ります。この坂の途中で横になると、体は自然に、深い眠りへ滑り込んでいく。ふだん昼寝が苦手で、目をつぶっても眠れないという方ほど、サウナ後の寝つきの良さに驚かれます。
ただし、ととのい昼寝には、ひとつだけ極意があります。長く寝すぎないこと。目安は二十分から三十分。それ以上眠ると、体は本格的な深い睡眠に入ってしまい、起きたとき、かえって頭が重くなります。さらに、夕方まで寝てしまうと、今度は夜の寝つきに響く。おすすめは、横になる前に、温かいお茶かコーヒーを一杯。カフェインは飲んでから効くまで二十分ほどかかるので、ちょうど目覚ましがわりに効いてきます。NASAが長時間任務のパイロットを対象に行った研究でも、二十六分ほどの仮眠で注意力がおよそ五割高まったと報告されています。「パワーナップ」という言葉が広まったのも、この研究がきっかけです。
朝は目覚まし、夜は眠り薬。
同じ熱なのに、やることは正反対なんです。
自宅サウナで、眠りを毎日の習慣にする
平日の朝は短く、覚醒のために。週末の夜はゆっくり、回復のために。休日の午後は二十分の昼寝で頭をリセット。ひとつのサウナ室が、時間帯によって三つの顔を持ってくれます。自宅にサウナがあれば、この使い分けが毎日できる。営業時間も混雑も関係ありません。
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写真: Martincco (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)
