FACILITY DATA / 施設情報
| 施設名 | 井戸端サウナ(いどばたさうな) |
|---|---|
| 所在地 | 秋田県雄勝郡東成瀬村(訪問前に要予約・集合場所は予約時に案内) |
| 形態 | 軽トラ積載・移動式アウトドアサウナ(完全貸切制) |
| サウナ | 薪ストーブ加熱 75℃ / 定員3名 |
| 水風呂 | 3種:天然の滝・木樽・沢(川)いずれも約15℃ |
| 外気浴 | 沢沿い・森の中での外気浴スペース |
| 料金 | 貸切2時間 12,000円(税込)/人数割引あり(詳細は公式で確認) |
| 営業日 | 土・日・祝日(完全予約制) |
| 予約 | 公式サイトより事前予約必須 |
| アクセス | 横手ICから車約30分 / 盛岡から国道107号経由で約1時間40分 |
| 公式HP | higashinarusesauna.com |
サウナから出て、滝に入る。この体験ができるのは、東北では東成瀬村だけだ。
岩手・秋田・宮城の川サウナを調べていくと、「川に入れます」という施設は複数ある。でも「滝に打たれる」ことができる施設となると、私の知る限り「井戸端サウナ」だけだ。秋田県雄勝郡東成瀬村、奥羽山脈の西麓に広がるこの山村に、軽トラに積んで運ぶアウトドアサウナがある。
薪ストーブで75℃まで温められたサウナ室から出て、目の前の滝に入る。気温差が秋田の山の冷気で増幅され、15℃の滝水が全身を包む。外気浴は沢沿いの森の中だ。これがサウナの原型に近い体験だと、私は思っている。
東成瀬村という場所を知っているか
東成瀬村は、秋田県の南東端にある人口約2,500人の小さな村だ。奥羽山脈に囲まれ、成瀬川が村の中心を流れる。2024年には成瀬ダムが完成し、東北最大の貯水容量を持つダムとして注目を集めた。
山に囲まれ、川があり、冬は雪が深い。この環境が、アウトドアサウナに最高の条件を与えている。夏の成瀬川流域は、清流と緑が組み合わさった、東北でも有数の自然環境だ。その中に、軽トラに積んだサウナが置かれる。
「井戸端」という名前も面白い。井戸端とは、井戸のそば、つまり水のある場所だ。水とサウナの組み合わせを、この名前が一言で表している。「水のそばで蒸す」という本質を、名前に込めた。
軽トラに積んで運ぶという設計の意味
移動式サウナは、フィンランドやスウェーデンの「テントサウナ」の系譜にある。テントサウナは、折りたためるサウナテントと薪ストーブをまとめて持ち運び、湖や川の近くで設営する。自然の水辺と薪サウナを組み合わせる伝統的な形式だ。
井戸端サウナの軽トラ積載スタイルは、この発想をより機動的にしたものだ。普通の軽トラで運べるサウナ室を作り、アクセスできる場所であれば水辺のどこでも設営できる。東成瀬村の地形は起伏があり、舗装道路が届かない沢や滝が多い。そこに軽トラで乗りつけ、その場で設営する。
私がサウナの設計をする仕事として、この「移動できる」という要素は常に検討対象だ。固定された建物としてのサウナは、場所に縛られる。その代わりに、設備の質と空間の安定性を高められる。移動式サウナは、場所の自由を選んだ代わりに、設備を絞り込む。その判断の背景には、「水辺という場所が、サウナに何を加えるか」という問いがある。
井戸端サウナは、その問いに対して「滝という答え」を持ってきた。
75℃の薪サウナと「炎の香り」
サウナ室の温度は75℃。乾式サウナの100℃に比べると低く感じるかもしれないが、アウトドアの薪サウナとしては標準的な設定だ。
薪で加熱するサウナには、電気ヒーターにはない特徴がある。火が燃えることで生まれる微量の煙の香りが、空気に混じる。これはHARVIAの電気ヒーターを日常的に扱う私が、薪サウナに入るたびに感じる違いだ。電気ヒーターは熱の質がクリーンで安定している。薪は、燃焼の瞬間ごとに温度と香りが微妙に揺れる。どちらが良いということではなく、体験の性質が違う。
アウトドアサウナで薪を使うのは、燃料の調達と管理の面でも理にかなっている。東成瀬村の山の木を薪として使えば、地域の林業と結びつく。山の木を切り、整備し、薪にして使う。それが山の管理にもなる。サウナの薪は、単なる燃料ではなく、山と人の関係を作る接点でもある。
3種の水風呂という贅沢
井戸端サウナの最大の特徴は、水風呂が3種あることだ。天然の滝、木樽、沢(川)。全て約15℃で、冷たさとしては均質だが、入り方がまったく異なる。
滝は、立って打たれる。水流が上から落ちてくる。打ち水という感覚だ。肩から背中にかけて、水の圧力とともに冷たさが伝わる。体の向きを変えながら、頭、肩、背中と水流を当てていく。水中に沈む水風呂とは違う、「流れる水に打たれる」体験だ。
木樽は、従来の水風呂に近い。体を丸めて樽の中に入り、水に浸かる。閉じた容積の中で全身を包まれる感覚は、水流の中にいる感覚とは異なる。静かな冷たさだ。
沢(川)は、流れる水の中に入る。川の水流の向きに体を向けて、流れを受ける。水の動きが肌を通じて伝わる。どの方向に立つかで、受ける水流の強さが変わる。自分で位置を調整しながら、心地よい場所を探す。
この3種を使い分けることで、2時間の貸切時間の中に複数の「整う」ポイントが生まれる。1セットで全種を試すもよし、同じ水風呂を繰り返すもよし。自分の体と相談しながら選べる。
定員3名・貸切という体験設計
1回の利用は3名まで、完全貸切制だ。時間は2時間、料金は12,000円。1人あたり4,000円になる計算で、アウトドアサウナとしては標準的な水準だ。
貸切であることの意味は大きい。見知らぬ他の利用者と空間を共有しないことで、自分たちのペースで入れる。水風呂に入る時間、外気浴の長さ、薪を足すタイミング、すべて自分たちで決められる。
また、3名という人数は、薪ストーブサウナの容積と外気浴スペースのバランスを考えた設定だろう。大人数でサウナに入ると、個人が外気浴に集中する時間が短くなる。会話が多くなり、休憩より交流の時間になる。3名程度であれば、会話しながらも、それぞれが自分の体に向き合う時間が保てる。
東北の秘境での「整う」感覚
外気浴の場所が、沢沿いの森の中という点も重要だ。建物の中や人工的な空間での外気浴とは、刺激の質が違う。
森の中では、音の環境が異なる。水の音、風で揺れる木の葉の音、鳥の声。これらの音は、都市部の外気浴スペースでは得られない。研究では、自然音が副交感神経を活性化し、リラックス効果を高めることが示されている。
東成瀬村の夏から秋にかけての気温は、外気浴に最適だ。サウナから出た後の体を、山の冷涼な空気が包む。真夏でも日陰の森の中は25℃前後で、サウナ後の熱を持った体に対して十分な温度差がある。
私がサウナの外気浴スペースを設計するとき、植栽や仕切りで「自然に近い感覚」を作ろうとする。でも本物の森の中での外気浴は、その努力の「答え合わせ」になる。何が本物で、何が模倣で、どこまで模倣できるかを知るために、こういう場所に来ることは必要だと思っている。
盛岡から1時間40分、岩手県境の秋田
東成瀬村は秋田県だが、岩手県との県境に接している。盛岡からは国道107号線を東に向かい、西和賀町を通って秋田側に入る。距離は約80km、時間は1時間40分程度だ。
横手ICからは約30分。秋田道を使って横手まで来て、そこから山に向かう。いずれのルートも山道が続くが、険しいというほどではない。予約時に集合場所の案内があるので、初めての人でも迷いにくい。
土・日・祝日のみの営業という点は、平日に動けない人には制約だが、週末に集中した利用が、村の静けさを保つことにもなっている。混雑した施設ではなく、静かな山の中での体験を守るための判断だと思う。
「サウナを山に持っていく」という思想
建物を持たず、設備を軽量化し、水辺に合わせて移動する。井戸端サウナの設計思想は、サウナを「施設」として固定するのではなく、「体験」として自然に組み込むことだ。
私が設計する自宅サウナは、建物の中に組み込まれた固定式だ。長く使えること、安定した熱環境を作れること、冬の東北でも機能することを優先する。その代わりに、水辺に行けない、場所を変えられない。
井戸端サウナは、その逆を選んだ。固定しないことで、滝と川と森を水風呂にできる。2つのアプローチは対立しているのではなく、それぞれに「何を優先するか」の答えがある。
東成瀬村の山の中で、軽トラから降ろされたサウナが煙を出している景色を想像する。この景色が成立するのは、東成瀬村の山と水があるからで、その場所でなければ作れない体験だ。サウナの本質が「場所と一体になること」だとすれば、井戸端サウナは秋田の山の本質と深く結びついている。