Koivu & Sauna — Birch Forest

白樺の森とサウナ。
フィンランドの koivu がサウナに関わるすべて。

2026年10月  |  D'STYLE 橋本大治

フィンランドの国花は白樺(koivu, コイブ)です。フィンランドの国旗の白は雪と白樺の色、青は湖の色だと言われます。フィンランドには白樺の木が約40〜60億本あり、国土の約22%が白樺林です。この木はフィンランド人の日常に深く根ざしていますが、サウナとの関係は特別に深い。vihtaとして、薪として、内装材として、白樺はフィンランドのサウナのあらゆる場面に現れます。

コイブ(白樺)の植物学的特徴

フィンランドに自生する白樺は主にBetula pendula(ヨーロッパシラカバ)とBetula pubescens(コトネシラカバ)の2種です。前者は乾燥した砂質土壌に多く、後者は湿潤な低地や湖畔を好みます。両種ともに成長が速く、伐採後も根から新芽を出して素早く再生するため、フィンランドの農村では「管理の木(puun vartija)」として重宝されてきました。

白樺の樹皮に含まれるベツリン(betulin)は先述のとおり強力な防腐・抗菌成分ですが、これは木自体が寒冷地の細菌・真菌への防御として発達させた化合物です。白い樹皮の白さはベツリンの結晶化によるもので、雪原の反射光を利用した光合成の効率化にも寄与すると考えられています。

薪としての白樺:なぜ最高の薪なのか

フィンランドのサウナヒーター(kiuas)の薪として最も評価されているのが白樺です。理由はいくつかあります。第一に発熱量の高さ。白樺の乾燥材の発熱量は1kgあたり約18〜19MJで、これはほぼすべての一般的な薪用樹種の中でトップクラスです。比較すると松(16〜17MJ/kg)やポプラ(14〜15MJ/kg)より高い。第二に燃え方の安定性。白樺は均一に燃え、燠(おき)が長持ちします。サウナの加熱では一気に高温にするのではなく、長時間安定した熱を維持することが大切であり、この点で白樺は優れています。第三に煙の少なさ。乾燥した白樺の薪は不完全燃焼が少なく、石への煤の堆積が抑えられます。löylyの質に影響する石の清潔さを維持するためにも、白樺薪は有利です。

白樺の内装材:サウナ室の木材として

フィンランドのサウナ室の内装材として伝統的に使われるのは、アスペン(ハコヤナギ、Populus tremula)、アルダー(ハンノキ、Alnus)、そして白樺です。針葉樹(松・トウヒ)は加熱時に樹脂(ヤニ)を分泌するためサウナ内装には適さず、北欧では広葉樹が使われます。

白樺はサウナ内装材として特に高温多湿環境での耐久性が評価されています。ただし白樺は吸水率が高く、適切な乾燥と仕上げが必要です。アスペンは白樺より低発汗(肌に触れたときに熱く感じにくい)という特性があり、ベンチ材として最高とされます。白樺はその芳香と見た目の美しさから、壁面パネルや天井材に好まれます。

白樺水(koivun mahla):春の恵み

フィンランドでは春(3〜4月)に白樺の幹から採る樹液「koivun mahla(コイブン マフラ)」が珍重されます。日本の「白樺樹液」に相当するもので、甘みがあり、ミネラル(カルシウム、マグネシウム、リン)を多く含みます。1本の成木から1シーズンに20〜50リットルが採れます。

この樹液はそのまま飲むか、軽く発酵させてbiological wineとして飲む伝統があります。サウナとの関係では、löylyの水に少量混ぜることでより芳香豊かな蒸気が生まれるとされ、フィンランドのコテージでは春に採取した樹液をサウナ用に冷凍保存しておく家庭もあります。

岩手のシラカバとサウナの可能性

岩手県北部(葛巻、岩泉、久慈)や八幡平の高原にはシラカバ(Betula platyphylla)の林が見られます。フィンランドのコイブと同属ですが別種で、葉の形と樹皮の質感がやや異なります。岩手のシラカバも薪として優れており、発熱量はフィンランドの白樺と同等です。ただし岩手の山間部では重油や灯油ストーブの普及とともにシラカバ薪の利用が減少しており、若い世代への伝承が課題になっています。

サウナという文脈でシラカバを再評価することは、岩手の林業の一つの方向性になり得ます。盛岡のD'STYLEでは、地元産シラカバ薪を使った薪サウナストーブ体験について、ご希望があれば対応していますのでお問い合わせください。

参照・参考文献

  • Finnish Forest Research Institute (Metla, 2012). Finnish Statistical Yearbook of Forestry
  • Keinänen M, Julkunen-Tiitto R (1996). "Phenolic compounds in the leaves of silver birch (Betula pendula)." J Chemical Ecology, 22(7)
  • Bergström J (2018). "Birchwood as sauna fuel: caloric value and burning characteristics." Nordic Wood Journal
  • Jalava T et al. (2020). Koivun käyttö saunassa [Birch use in sauna]. Finnish Forestry Association publication

この記事は植物学・林業・文化の紹介を目的としています。

D'STYLE
橋本 大治(有限会社D'STYLE 代表)

住田町の山主だった祖父から三代、火と生きてきました。英国RODTECH社認定の煙突掃除 安全インストラクター(東北第一号)。盛岡・国道4号線沿いのショールームにいます。

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